第16回広島国際アニメーションフェスティバル リポート | アニメ!アニメ!

第16回広島国際アニメーションフェスティバル リポート

2年に一度の広島国際アニメーションフェスティバルが、8月18日から22日までの5日間、開催された。1985年に第1回が開催され、個人作家による短編アニメーションが多く出品される映画祭だが、今回で16回を数える恒例のイベントとなった。

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[取材・文:津堅信之(アニメーション研究家)]

2年に一度の広島国際アニメーションフェスティバルが、8月18日から22日までの5日間、開催された。1985年に第1回が開催され、個人作家による短編アニメーションが多く出品される映画祭だが、今回で16回を数える恒例のイベントとなった。
アニメーション映画祭は世界各国で開催されており、このうち、フランスのアヌシー、カナダのオタワ、クロアチアのザグレブ、そして広島で開催されている大会が「四大メジャー」に相当する。このため広島大会の注目度は高く、新作を出品しグランプリを競うコンペティション部門には、今大会では78の国・地域から過去最多の2248作品の応募があった。このうち、一次選考を経て大会で上映される本選に入ったのは60作品である。
前回大会では、広島大会史上初めて、日本人作家の作品がコンペに1本も入らず、映画祭という「お祭り」の空気をしらけさせる雰囲気もあったのだが、今大会ではベテランから若手まで7作品が入った(日本からの応募全体では合計277作品)。

コンペティション以外のプログラムも豊富で、フィンランド、モルドバなど珍しい地域のアニメーション特集、ピクサーの短編『ひな鳥の冒険』の監督とプロデューサーによるプレゼンテーションなどが組まれた中、今大会で最も注目されたのが、大規模な日本特集である。1917(大正7)年制作の国産最初期から最新の作品まで、実に233本もの作品が上映された。来年(2017年)が日本アニメ100周年であることを考えると、時機を捉えた企画と評価したい。
もっとも、テレビや劇場用の商業系作品よりも個人作家を「応援する」ことが広島フェスの特色だから、この日本特集でも大半が短編アニメーションであり、商業系の長編アニメで上映されたのは『火垂るの墓』『AKIRA』など数本、テレビアニメシリーズは『鉄腕アトム』などわずか3作品だった。事前交渉で上映許可が得られなかった例もあったようだが、結果的に商業系作品はほとんど皆無に等しい。
筆者は、広島に来るたびに、アニメ大国・日本と称されながらも、いわゆる商業アニメ界と、インディペンデント系の短編アニメーション界との乖離を感じる。この点は、広島フェスが始まったときから言われているもので、それから31年を経て、国内外での日本のアニメ事情が激変してもなお、その溝は埋まる気配がない。もともと両者を別のものと考え、あえて近づける必要はないというむきもあろうが、一つ声を大にして言いたいのは、国際映画祭で短編作家を応援することと、その場で短編作品中心に紹介することとは全く別だということである。上映という手段の役割が時代とともに変化しているのだということを、主催者側にはあらためて考えてもらいたいと思う。

さて、コンペティションの結果であるが、最高賞のグランプリには、韓国の若手アニメーション作家、チョン・ダヒ監督の『空き部屋』が選ばれた。チョン・ダヒ監督は広島フェスでも過去に入賞しているが、韓国人作家のグランプリ受賞は今回が初めてである。
注目された日本人監督の作品からは、山村浩二の『サティの「パラード」』、坂元友介の奇作『ナポリタンの夜』がともに優秀賞を、岡崎恵理の『FEED』が国際審査委員特別賞を受賞した。山村はベテラン、坂元は若手から中堅へ移ろうかという実績、そして岡崎は本作が大学の卒業制作という新進気鋭である。
通常、広島フェスのような映画祭のコンペでは、「学生作品」「テレビアニメ」「コマーシャルフィルム」といったカテゴリーがあり、カテゴリーごとに賞が授与されるのだが、広島フェスではこうしたカテゴリーが設定されていない。つまり、大ベテランの作品から学生作品まで、すべてを一緒くたに審査する。これは広島フェスならではの特色で、岡崎のような学生作品のこの状況での受賞は価値が高いと言えよう。
いずれにせよ前回は、日本人作家は受賞どころかコンペ本選にすら1本も入らなかったのだから、今回の3作品受賞はすべての関係者をホッとさせたのではないかと思う。
受賞作全体の傾向でみると、ベテランから若手まで、また作品内容としても深い思索をめぐらせた作品からほほえましいコメディまで、わかりやすくバランスの良いラインナップになったように思う。
広島フェスの今後は、やはりアニメ大国・日本での開催という点をもう少し利点として活かしたい。初回から30年以上を経ても、広島市、そして日本でのこの映画祭の知名度が今一歩という点がもどかしい。アニメーションを勉強中の学生と思われる観客の参加も今回は比較的少なかったように思われるし、商業アニメサイドの関係者の参加も、いつもより少なかった。アニメーションという分野に変な区分けを設けず、アニメ界全体の地位向上に、広島フェスがより積極的に利用されることを望みたい。

◆受賞作一覧(広島国際アニメーションフェスティバル公式Webより)
http://hiroanim.org/ja2016/04compe/04-6.php

チョン・ダヒ監督「空き部屋」
(c)2016. Jeong Dahee all rights reserved

山村浩二監督「サティの「パラード」」
(c) Yamamura Animation

坂元友介監督「ナポリタンの夜」
(c) 2014 Yusuke Sakamoto

岡崎恵理監督「FEED」
(c) Eri Okazaki

[アニメ!アニメ!ビズ/animeanime.biz より転載記事]
《津堅信之》
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