Netflixの日本上陸でアニメビジネスも変わる?ローカルコンテンツ戦略を訊く

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―-世界最大の番組配信サービスであるNetflixがいよいよ日本に上陸、この9月からサービス提供を開始した。豊富なライナップ、なかでも『デアデビル』『センス8』といったNetflixならではのプレミアムなオリジナルコンテンツが話題を呼んでいる。
独占配信するオリジナルコンテンツはNetflixの大きな魅力であるが、同様の試みは日本でもすでに始まっている。『テラスハウス』新シリーズやドラマ『アンダーウェア』といった、Netflix独自の日本コンテンツがすでに配信されている。
こうした取り組みはアニメファン、そしてアニメ業界の関係者からも注目を集めている。Netflixはすでに100近いタイトルのアニメをラインナップする。「アニメ」は、Netflixの主力コンテンツのひとつであることは分かる。それではNetflixに今後オリジナルアニメが登場する可能性はあるのか?Netflixのアニメにおける日本市場の戦略は?それは日本のアニメに何をもたらすのか?
Netflix株式会社で、日本コンテンツを担当するローカルプロダクション シニアプロデューサーの上木則安氏に、日本におけるNetflixの取り組み、そのなかでのアニメについてお話を聞いた。
[取材・構成=数土直志]

■ 2015年9月、なぜいまNetflixの日本進出なのか

――まず話題はNetflix全体について、なぜいま日本進出なのか、そしてNetflixにとっての日本市場の位置づけから伺った。そうしたトピックスからは、同社が今後、どのくらいの力を日本に向けるのか分かるだろう。

アニメ!アニメ!(以下、AA)
まずは全体的な話になりますが、なぜこの時期に日本なのでしょうか?もう少し早く進出することもできたと思います。

上木則安氏(以下、上木)
日本市場へのリサーチはかなり前から進めていました。逆にリサーチした結果、日本の方はコンテンツ好きで、世界に比べてもDVDやブルーレイが売れる国と分かりました。今でもDVDやブルーレイを購入する珍しい国という意味で時間をかけた準備が必要だったのです。
その準備として日本オフィスを構えましたが、ローンチ前にオフィスを持ったのは日本が初めてです。やはりそのほうがマーケットがわかりますし、コミュニケーションがとれます。
それとコンテンツをこれだけ多く発信している都市は、世界的に東京とロサンゼルスぐらいなんです。われわれはローカルコンテンツがとても大切だと思っていますから、きちんと日本の人々とコミュニケーションをとるために、腰を据えて取り組んで行きたいと考えたわけです。

AA
海外進出自体はいつ頃からスタートしたのですか。

上木
アメリカ以外でスタートしたのがカナダで、それが5年前です。会社自体はかなり古くからですが、ストリーミング自体は比較的新しいですね。
Netflixは1997年に、まずDVDのインターネットで予約する宅配サービスからで始まりました。ただ最初からNetflixという名前をつけた理由は、最終的には配信のかたちにしたいと考えたためです。2007年になってパソコンでのストリーミングサービスが可能になって、まずはアメリカで配信を開始しました。
その後海外にも展開をはじめました。日本は世界第3位の大きなマーケットですから当然視野には入れていました。けれども日本は劇場映画でも興行収入の結果が他の国とは全く違います。そこでローカルコンテンツが必要だと考えました。実はローンチと同時にローカルコンテンツを持ったのも今回が初めてなんです。それが『テラスハウス』と『アンダーウェア』です。ただアニメはやっぱり時間がかかってしまうので、これには間に合いませんでした。

AA
日本対策として、ローカルコンテンツの他にどういったものがありましたか?

上木
あとはNetflixが持つ世界共通の強みです。「パーソナライズアルゴリズム」として、ユーザーそれぞれに最適的化したリコメンデーション機能が売りですし、ここには投資もしています。
これは1997年のDVDレンタルの時からのレンタルデータも全部蓄積した上で、人の思考をものすごく考えています。アルゴリズムに沿ってタグ付けしています。アクションものでも7万通り以上もタグを作っています。切ないアクションもあるし、笑えるアクションなどいろいろあります。タグを何種類もつけていき、その視聴履歴が蓄えられていくと、その人にあったリコメンデーションができます。アメリカでは全視聴履歴のうち75%の人々がリコメンデーション機能から作品を選んでいます。
ただ見たいものがなければ、いくら使いやすくても、見たいと思いません。ですからそのうえでコンテンツをすごく重視しています。

■ 全ての人に満足してもらうコンテンツとは?

AA
コンテンツを揃える時に、マスに向けたものなのか、それともNetflixが好きな人に向けたものなのか。あるいはテレビ放送やケーブルテレビ、あるいは映画とどの様に違うのでしょうか?

上木
Netflixでは「Something for Everyone」と言っています。例えば100人中100人が好きな映画も欲しいのですが、100人中の10人が好きな作品もわれわれは提供したいとのスタンスです。
ビジネスなので10人しか見ないのに、それが100人が見ると考えたら失敗します。でも最初から10人だけとわかっていれば製作費もマーケットの宣伝費もその分だけをかければいいわけです。逆にわれわれは100人中10人であるものをきちんと見誤まらずに届けることで、多くの人に満足してもらいたいのです。

AA
そうであれば日本のアニメも活きますね。まさにNetflixが日本進出前から世界で手掛けた『シドニアの騎士』はいい作品ではあるけれど、大人が楽しめる日本のアニメであって、必ずしも万人向きではありません。それが10人に1人の作品だと思った時に、ラインナップとして理解できます。

上木
『シドニアの騎士』はまさにそうですね。日本以外ではアニメは子どもが見るものといった考えがあります。でもリコメンデーション機能があるので、そこに現れることで見るきっかけも提供しています。今までファンでなかった人たちが作品のファンになってくれました。

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■ Netfliの中のアニメ作品

―-昨今、アニメ業界で話題になることの多いのが、番組配信である。配信ビジネスは急成長し、アニメだけでも2014年の市場規模は400億円を超えた。昔であればアニメの映像ビジネスは、映画・テレビ・ビデオパッケージが主要な3つである。しかし、配信がいまこの中に加わり、メインストリームに躍り出ようとしている。
そのなかでNetflixの進出に大きな注目が集まる。それはNetflixが作品の獲得にかなり投資をすること、そして日本のアニメにも投資をするのでないかといった期待と不安も含まれている。実際にNetflixが日本のアニメビジネスと関わるなかで、今後日本のアニメに何か影響は起きるのだろうか。

AA
日本のアニメ配信市場が拡大し、お金が回りだすなかで、新たにNetflixが出てくる。これでまたビジネスも変わるのでないかとの声があります。それはNetflixがオリジナルコンテンツの獲得に積極的なこと、かなりの投資をすることも含めてです。実際、Netflix自身が、この辺りをどう考えているのか教えてください。

上木
結果的に変わる可能性はあると思います。私も映画出身ですので、日本から発信するコンテンツとして邦画よりもアニメが世界で人気があることも理解しています。しかも子ども向けからハイエンドユーザーに向けた幅広い作品があります。世界展開を考えた時に、これを大事にしていきたいと思っています。
一方でサービスを世界に広げていくためにはNetflixでしか見ることのできない作品を揃えることが重要だと思っています。これはその時点ではNetflixでしか見られない、あるいはNetflixで先行するという意味です。そうした作業をやっていく中で、アニメのビジネスモデルが変わっていく可能性はありますよね。

AA
日本にはアニメに特化した配信サービスが多くあります。しかも成功しているサービスも少なくありません。Netflixのようなオールジャンルを揃えるサービスは、それらとは違った戦略があると思います。アニメ専業の配信サービスについてNetflixはどういう考えを持っていますか?

上木
とてもすばらしいと思います。われわれは日本のブランチを立ち上げる時に、競合他社から客を奪って、Netflixがどんどん勝っていくんだみたいなことを考えた時も、一瞬はあったんです。ところが、創業者のリードが来日した時に、それは全然違うと話しました。
アメリカで言えば映画配信のHBOプラスとNetflixと、両方入っている人も多いです。MLB.comといったスポーツ専門配信サービスとNetflixを両方契約していることもあります。
NetflixはSDで650円、HDで950円ですが、それにアニメ専門サービスを足しても決して高くないはずです。どちらかの選択でなく、Netflixがあるけれども他のサービスを足していく、そうしたお客さんが今後は多くなると思います。

AA
では他のサービスと共存する時に、Netflixが揃えるべきアニメのタイトルはどういった方向になりますか?

上木
われわれはお客さまが何を求めているかをベースにしながら作って行きます。「こういうのがきっと見たいだろう」ではありません。そこに履歴データが反映されます。
アメリカでの大ヒット作『ハウス・オブ・カード』では膨大なデータを基にお客が喜ぶように脚本が作られています。ただ日本ではまだサービスが始まったばかりですからデータがありません。ですから今後、サービスを続けていく中で、こういったものがNetflixには向いているんじゃないかといった事を考えたいです。もうひとつは先行している世界50数カ国で受け入れられている日本のアニメの中から、オリジナルではこうした作品を中心に揃えたらと考えます。
ひとつはっきりしているのは、日本では受けているけれども、世界では受け入れられていない分野にはあまり積極的に進出しないことです。例えば日常系や萌え系は、文化の違いやアニメに対する期待感の違いもあるのでしょう。そこには取り組んでいないですね。

AA
逆にNetflixに合った作品は、どういったものですか?

上木
世界多くの人がご覧いただいているものはアクション、SFです。そうした作品は強いです。

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■ クリエイターが「Netflixと相談してみよう」と思ってもらえれば

AA
海外で受け入れられる作品とのお話ですが、オリジナルコンテンツに取り組んだ時は日本で配信し、さらに海外にも作品を持って行くスタンスなのですか?

上木
われわれがオリジナルと呼ぶ作品は、全世界配信が原則です。

AA
そうなれば海外のニーズも必要ですが、海外のNetflixで配信されている日本アニメの履歴は参考にされるのですか?

上木
オリジナルに関しては参考にしています。日本でも9月からデータが入ってきますので、これも参考にします。

AA
実際に日本でオリジナルのアニメに取り組む企画は進んでいるのでしょうか?

上木
いくつかのスタジオさんと、いろんな意見交換をしています。サービスを開始してみて、反応を確認をしたうえでかたちにしていく構えです。

AA
Netflixが一緒にやりましょうと持ちかけた際、日本のスタジオ、あるいはプロデューサーの反応はどうでしょうか?

上木
少なくとも興味は持っていただけます。それは多くのかたが今のアニメのビジネスモデルがいつまで続けられるのかと考えているからだと思います。それはNetflixがいる、いないとは関係なくです。
これまでもアニメビジネスのモデルはいくつかあり変化してきましたが、その変化のひとつとしてNetflixに一次利用で作品を出して、ある期間を置いた後にパッケージを出して、トータルで回収していくことが可能か。これからアニメスタジオさんやビデオ会社さんと考えていくことになると思います。

AA
Netflixが一次利用でやりますと話すと、アニメスタジオはハッピーになるかもしれません。もしNetflixがまとまった金額を支払えばスタジオはかなり楽になるはずです。逆にパッケージメーカーや放送局、映画会社は自分たちが中抜きされてしまうのでアンハッピーかもしれません。それが警戒されることはありませんか?

上木
いつビデオが出せるかの話がまとまれば、ビジネスは可能だというビデオ会社はあります。テレビ局は確かに一次利用がNetflixとなると放送はかなり後になってしまいます。これに不安はあると思います。
ただNetflixは放送した作品のライセンスの新たな販売先という捉え方もあると思います。それはテレビが先行ですね。

AA
2年後3年後ぐらいにNetflixが日本のアニメ業界でどういう存在になるみたいなイメージはありますか?

上木
アニメを作ろうとするプロダクションさんとかクリエイターさんが、わりと早い段階で「そうだ、Netflixと相談してみよう」と思ってくれることです。

AA
普通にアニメの業界に入り込んでいる感じですね。

上木
そうですね。そのためには早い段階で成功例も作りたいと思います。われわれこれから1年、2年で200カ国、1億世帯を目標に拡大しているんです。その中で確実にアニメのファンも広がっています。日本の人だけで満足してもらえればいいだけではありません。
「自分の作った作品を世界のどこかで誰かが楽しんでくれるはず。だからNetflixにこの企画を持って行こう」と、そうみんなが思い浮かべて貰えるメディアになりたいですね。

AA
どうもありがとうございました。

Netflix https://www.netflix.com/jp/
[アニメ!アニメ!/animeanime.jp より転載記事]