成長するスペインのアニメーション 第4回SNS、クラウドファンディングから生まれる新コンテンツ

≪バルセロナで、ヨーロッパのトランスメディアのプロジェクトピッチ「Cartoon 360」開催≫
EUデジタル単一市場の構築で、活気づくトランスメディア
成長するスペインのアニメーション

第4部 SNSから生まれる、ティーン/ヤングアダルト向けコンテンツ

[オフィスH 伊藤裕美]

■ ブラックジョークと独特の間合いを持つ、ティーン/ヤングアダルト向けコンテンツ

コンテンツ開発でネットコミュニティを先行させる手法は、ティーン/ヤングアダルトに向いた手法のようだ。Cartoon 360でピッチされたプロジェクトのなかで3本はSNSでコアなファンを獲得した後にテレビへの展開を図り、ある程度の製作資金はクラウドファンディング、Kickstarterで調達していた。
フランスの『corpus gang』(製作:QUAT Entertainment、CANOPE)はフランスの国民教育省と厚生省と連携しながら開発する、新手のティーン向け健康教育だ。SNSで広がった、脱力系のキャラクターのシットコムを4月にスマートフォンのアプリにし、これからテレビシリーズにする。テレビ局は、シンプルなシットコムというより、シニカルでブラックジョークを利かせた、脱力系コメディに触手を伸ばす。

フランスのChicken’s Chicots Productionがフランス語圏向けにFrance Télévisionsと共同製作する『La méthode Von Mopp(邦訳:ヴォンモップ先生の教則)』(2分x52話)は、常に上から目線の博学者ヴォンモップがお茶目な弟子、パンダのフィリップを相手に文明生活や読み書きを教導するというナンセンスコメディ。スウェーデンのMonkey Machines Filmが進める『Krabstadt(クラブスタッド)』もヤングアダルトに的を絞る。
『クラブスタッド』は女性ビジュアルアーティスト、エヴァ・エインホルン氏とジェウノ・キム氏が、エンタテインメントと政治的・社会的テーマが共存する8分間のナンセンスコメディと、アニメーションからスピンオフしたオンラインゲームなどを開発中だ。Krabstadt(クラブスタッド)というのは、ノルディック諸国が長期失業者や亡命者など、“自国に居てほしくない人々”を送り込む、北極圏の架空の町。町の開発事務所の女性職員2人が地域で起こる問題を過激に解決する。

 

『La methode Von Mopp』 (C)Chicken’s Chicots Production - France Televisions
『La methode Von Mopp』
(C)Chicken’s Chicots Production – France Televisions

 

ショートアニメーション第1弾『Krabstadt 01 Whaled Women』は2013年のベルリン映画祭短編コンペティションで好評を得て、ドイツ、オーストラリアなどで放映された。第2弾『Krabstadt 02 Sex & Taxes』は昨年完成した。失業者が職業インターンで滅茶苦茶なことをするとポイントが溜まる『TIT(Time Is Taken) Game』、フェミニストの妨害を跳ね除けポルノビデオを完成させる『Feminist Sex Game』がアニメーションと連動して開発中だ。クラブスタッドの建物はエコでハイテクだが、2年に一度は上下逆さまにしなければならない砂時計型の開発事務所や西洋そろばん型の集合住宅のように奇抜で、ファン投票やメキシコの建築大学と提携してデザインを決めながら、数を増やす。
France Télévisionsのアニメーション開発・編成の責任者ジョセフ・ジャケ氏は「クラブスタッドの放送を考えたい」と極めて前向きなコメントをし、Cartoon 360の翌週にはカートゥーン事務局から「Cartoon Forumでピッチできるプロジェクトに選ばれた」と連絡が入ったという。

■ クラウドファンディングで資金調達する、若手プロデューサー

ドイツのgretegrote Internetproduktionの『NOTFUNNY(ノットファニー、原題:NICHTLUSTI)』とデンマークのSun Creature Studioの『The Reward – Tales of Alethrion(邦訳:報奨金-アレトゥリオン物語)』はKickstarterでのクラウドファンディングに成功し、Cartoon 360にはビジネスパートナーを求めて参加した。
ドイツのカートゥーニスト、ヨーシャ・ザウアー氏が2000年から毎週ネット公開するウェブカートゥーン「NICHTLUSTIG」は、ドイツ語、英語、スペイン語、イタリア語、ロシア語に翻訳され、コミックスブック(印刷書籍)の販売は累積200万部を超す。Kickstarterで1万バッカーから20万ユーロ(約2,600万円)を集めた。アプリのダウンロード200万以上、アクティブなプッシュ通知50万、YouTubeのビューアー300万以上、facebookのファン登録70万で、キャラクターのライセンシングも進む。
プロデューサーのブリッタ・シェーヴェ氏は「NOTFUNNYは359度のブランド展開がきた。テレビ放映が残りの1度」と言う。アメリカの「シンプソンズ」に英国の「リトル・ブリテン」と「モンティ・パイソン」を掛け合わせたような、12分のドイツ風シットコムが世に出るのも間もなくだろう。

カナダのCMF(カナダ・メディア機構)のトレンドレポート「The Big Blur Challenge」(2014年12月)によると、2011年には全世界で15億米ドルに過ぎなかったクラウドファンディングが、2013年には51億米ドルに急成長した。ゲームのウェブ実況で億万長者になったスウェーデン出身のピューディパイ(PewDiePie)のようなYouTuberがYouTube、Vine、Snapchatといった動画共有プラットフォームでセルフ・プロダクション、セルフ・ディストリビューションし、“独習のスター”としてセルフ・ブランディング文化を広げている。
CMFはテレビ局などの従来メディアに対し「新しいスターと、多様なパートナーシップを組んで、新しい視聴者を増やせ」「YouTubeをターゲットとするベンチャーに投資せよ」と助言する。

■ クラウドファンディングで、無名の新興スタジオがグローバル市場を目指す

『報奨金-アレトゥリオン物語』は、デンマークのアニメーション・インスティチューション、The Animation Workshopの学生3名の卒業制作ショートアニメーション『The Reward』から発展した。地元でSun Creature Studioを設立した彼らはKickstarterキャンペーンに参加した。
シリーズ第1話(パイロット)の主役とストーリーを決定するファン投票とクラウドファンディングをし、ベッカー3,920名から142,987米ドル(達成率124%)を集め、『The Reward: Tales of Alethrion – “The First Hero”』を完成させた。フランス出身のプロデューサーも加わり、7名になったSun Creature Studioのクリエイターたちは、架空の国Alethrion(アレトゥリオン)で謎の地図に描かれた宝物を探す荒くれたちの冒険ストーリーやデザインの開発をベッカーらと共におこなう。
現在ベッカーは6,700ほどになり、ネットファンは延べ47,000。7分x10話のウェブシリーズ、コミックブック、ゲームなどへのクラウドファンディング、パブリックファンディングも求めながら、インターネット・ブロードキャスター、テレビ局、出版社からも資金調達したいと、ピッチした。

 

4_3The Reward
『The Reward – Tales of Alethrion』 (C)Sun Creature Studio

 

■ 企画開発を支援する、ヨーロッパの助成制度

北欧の小国デンマークはアニメーションの産業歴は浅いながら、アニメーション製作ではフランス、スペイン、英国、スウェーデンに次ぐ(2010年~14年の期間に劇場公開長編アニメーション19本製作/出典:「Focus on Animation」)。狭い国内市場や業界の枠を軽々と越えて、クリエイターはクラウドファンディングやネットコミュニティとのシナジー、国際共同製作に積極的に乗り出す。
行政側も、若手クリエイターの起業やグローバル展開できるアニメーションのプロジェクト起ち上げを支援する。とりわけ国際共同製作の奨励、ピッチで優良なパートナーを見つけるためのパイロット版や脚本などの開発初期費を助成する。EUのオーディオビジュアル産業支援プログラム「Creative Europe/MEDIA」も国際共同製作と開発初期への助成に力を入れる。

■ デジタルコンテンツを支援する、カタルーニャ州

Cartoon 360を開催したカタルーニャ州のアニメーション・プロデューサーが組織する、PRO-ANIMATS(プロ・アニマーツ)のマネージャー、マール・サエーズ氏によると、「カタルーニャ州はこの10年ほど、スペインのデジタルコンテンツ産業の中心地として成長してきた。州政府も支援をしており、この6月をDigital Juneという一般向けのイベント月間にした。10月にはマンガサロンも開催される」。
バルセロナはデザイン都市とも呼ばれる。カタルーニャ地方は20世紀を代表するアーティストを多く輩出してきた。建築家のアントニ・ガウディ、リュイス・ドメニク・イ・モンタネール、画家のジョアン・ミロ、サルバドール・ダリ。パブロ・ピカソも一時バルセロナに住んだ。隣接するフランスからの影響があり、大学や私立学校の教育も優れる。1992年のバルセロナ・オリンピックで街は近代化された。カタルーニャ州の公共放送TV3はデジタルアニメーションをサポートしており、製作出資もする。

既述のとおりスペインでも国際共同製作は活発で、スペイン政府は昨年11月に税優遇措置を改善し、インセンティブを他のEUの先進国並みにしようとしている。
カートゥーンが運営する、グローバル市場を目指すプロジェクトのピッチが盛況になるためには、プロデューサーがプロジェクト開発のリスクを分散できる仕組みも必要となる。ヨーロッパではEU、そして各国がプロジェクトの開発早期から国際的なタッグを組めるよう助成し、独立系プロデューサーがそれらを活用してグローバル市場を目指す。ヨーロッパのプロデューサーと組むことでビジネスチャンスを広げる、韓国や中国。変化するアニメーション市場に、日本はどのように臨むのだろうか。

 

プロジェクトを評価するエキスパートたち (C) CARTOON
プロジェクトを評価するエキスパートたち
(C) CARTOON