マンガはなぜ赦されたのか–フランスにおける日本のマンガ-第7回「アシェット、エディティス、仏大手出版社の参入」

[第6章 フランスの出版界とマンガ
アシェット、エディティスの参入の意味するもの

■ 豊永真美
[昭和女子大現代ビジネス研究所研究員]

■ フランス出版界の巨人:アシェット

グレナ、メディア・パルティシパシオン、Ki-oonはいずれもマンガ出版社としてはそれなりの地位を確立しているが、フランスの出版界ではメイン・プレーヤーではない。

フランスの出版界のメイン・プレーヤーといえばアシェットだ。フランスではアシェットはM&Aを繰り返しながら、巨大化していった。
フランスの出版界でいかにアシェットが強大かというと、出版社を売上別にみると、2013年でアシェットの売上は20億ユーロ。2位以下の売上を見ると、2位のエディティスが7億ユーロ、3位のガリマール・フラマリオンが4億ユーロ、4位のメディア・パルティシパシオンが3億ユーロなので、アシェットがどれだけ市場を支配しているかがわかる。

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[フランスの出版社の売上(2012年)] (100万ユーロ)
アシェット  2,066
エディティス  693
ガリマール・フラマリオン  421
メディア・パルティシパシオン  338
ラマルティニエール  264

出所)Le Monde “Le secteur du livre ne veut pas ceder a la morosite”
En savoir plus sur http://www.lemonde.fr/livres/article/2014/03/16/marche-du-livre-le-boom-de-la-petite-edition_4383821_3260.html#kDxtpdzfb16R8T17.99

要するにフランスの出版界はアシェットが単独支配しているような状態であり、アシェットが取り上げる分野こそが、フランスの出版界に根付いたものといえるのだ。

アシェットは単なる出版社ではない。ラガルデールグループの一員である。ラガルデールグループは4つのグループからなる大企業グループで、アシェットが属するのが「ラガルデール・パブリッシング」で、出版、取次を担っている。この他、世界各国で空港や駅の免税店やキヨスクなどの小売りを展開する「ラガルデール・サービス 」、ファッション誌「エル」やGULLIなどのテレビ局、Europe1などのラジオ局、ラガルデール・ピュブリシテという広告企業を展開する「ラガルデール・アクティブ」、プロゴルファーのエージェントや各種スポーツイベントの企画、スポーツ施設の運用などを担う「ラガルデール・アンリミテッド」がグループの構成企業だ。
2011年までは、フランス最大の航空・軍需産業であり、エアバスを製造するEADSもグループの一員であった。ラガルデールグループはEADSの株式をすべて売却したのは2013年のことである。ラガルデールグループ全体の2013年の売上は72億ユーロとなっている。

この巨大企業がマンガ市場に参入したのはかなり遅い。フランスでマンガが本格的に売れ出したのは2000年代に入ってからだが、アシェットのマンガ市場への参入は2007年のこととなる。講談社と縁が深く「Fairly Tail」や「ラブひな」などを出版していたPIKAを買収したのだ。
PIKAの前身は日本のゲームを紹介する雑誌であったが、2000年に、マンガ出版社となった。グレナやKana が少年むけのマンガに力を入れていたのに対し、PIKAは15歳以上を対象とした青年マンガにも力をいれており、例えば「ふたりエッチ」の翻訳などを手がけている。

アシェットはPIKA買収以前の2006年にアメリカでマンガ出版社Yen Pressを創業しており、大西洋をまたぐ形でマンガの出版を行うこととなった。

PIKAはアシェットに買収されたあと、「Fairy Tail」、「進撃の巨人」、「七つの大罪」というビッグタイトルにも恵まれ、フランスのマンガ市場が厳しくなる中でも持ちこたえている。これがアシェットの力の影響かどうかは不明だが、アシェットの傘下に入ったことは少なくともマイナスにはならなかったようだ。

そして、マンガにとっても「アシェットが参入した」ということで、ある種の後ろ盾ができたという感じはある。アシェットが出版する分野は、フランスの出版市場において無視できないものという暗黙の了解は存在しているのだ。

■ フランス第2位の出版社エディティスもマンガに参入

アシェットのマンガ市場に先立って、フランスの第2位の出版社であるエディティス(Editis)は2005年に社内にマンガ部門を立ちあげた。レーベル名はKUROKAWAで、これはエディティスがもっていたレーベル「Fleuve Noir(黒い河 2014年にFleuveに改名)」を日本語訳にしたものである。

KUROKAWAがマンガ市場に参入したときは、すでに、少年ジャンプ系は、Kanaかグレナ、講談社系はPIKAというようにある程度市場に「棲み分け」ができていた。新参者のKUROKAWAはスクエア・エニックスにアプローチし、「鋼の錬金術師」の翻訳権を得る。「鋼の錬金術師」がヒットしたことにより、KUROKAWAはマンガ市場に基盤を築くことができた。

フランスを代表する1位、2位の出版社がマンガ市場に参入することにより、フランスにおけるマンガ市場は堅固なものとなったのである。