脚本家・加藤陽一による体験講座『妖怪ウォッチ』『アイカツ!』のヒット脚本術とは

583313月22日(日)、東京ビックサイトにて開催されたAnimeJapan 2015において、脚本家の加藤陽一氏が「『妖怪ウォッチ』『アイカツ!』にみるヒットアニメ脚本術」と題し、シナリオライター志望者向けの体験講座を行った。『ズームイン!!SUPER』などの放送作家を経てシナリオライターに転向した加藤氏はこれまでに『妖怪ウォッチ』や『アイカツ!』『宇宙兄弟』といった人気アニメのシリーズ構成・脚本を手がけている。
また、この講座にはサポートという立場で『アイカツ!』設定制作を務めたサンライズ・田中昂氏が登壇した。人気作家のヒット脚本制作術を聞こうと、会場には多くのアニメシナリオライター志望者・観客が集まった。

講座は2部構成で進行した。第1部は「シナリオ作成とは」という講義。加藤氏が脚本執筆の際にどのようなことを考えているのか、テレビで放送されたばかりの『アイカツ!』のシナリオをスクリーンに映しながら、留意すべきポイントなどを明らかにした。
加藤氏は作品の完成予想図が思い描ける脚本作りを心がけているという。アニメのスタッフはもちろん、玩具や音楽など、作品に関わる全員に、同じ完成予想図を想像させるのだ。

シナリオとは基本的に「柱」(時間場所を現す)「ト書き」(行動やカメラワークなどを記す)「セリフ」の三つで構成されている。加藤氏はト書きも細かく書き込んでいる。「自分はこう思っている」と、作家の意図をいったんってもらうためにしているとのことだ。

■ そのプロジェクトにとっていい脚本であること

シナリオライターに向いていないのではと悩む時期もあったという。いい脚本とは何か、わからなくなったのだ。だが結局は「『いい脚本』というものは作品によって違う」もの。そして、【そのプロジェクトにとっていい脚本は何かを最初にしっかり決めること】【そのコンセプトを達成するという基準で全てをジャッジすること】がいい脚本作りに繋がっていくと語った。
練習で脚本を書く時も、目的や理想・コンセプトを決めて書くことは大事である。その中で何がよくて何がいけないのか作品ごとに適切な【しっかりしたジャッジの基準】を持って書き進めていくことだと語った。

流通するシナリオの指南書についても言及した。加藤氏は流通する指南書をほぼ全て読んだとのこと。「どれも書いていることは間違っていない」という。だが、前述の「そのプロジェクトにとっていい脚本は何か」を考えれば、見え方も変わってくるのだ。どの指南書も「著者」にとっての『いい脚本』の書き方だ、ということだ。全てを鵜呑みにするのではなく、「ここに書かれていることは本当か」と疑問に持つことも大切な要素だという。
加藤氏が今でも執筆に詰まった時などに目を通している指南書を紹介してくれた。
・『ハリウッド・ライティング・バイブル』
・『脚本を書くための101の習慣ーー創作の神様との付き合い方』
北米の脚本術は論理が整理されており、使いやすいとのこと。気になった方は手に取ってみてはいかがだろうか。

■ 課題の講評。加藤氏が大切にしていること

第2部は事前に提出された課題の講評と実演だ。課題は二つ。

◇TVアニメ『妖怪ウォッチ』第1話でケータがガシャガシャマシンを見つけ、ウィスパーの声に”お金を入れろ”と促されます。そのあと、アニメ本来の展開とは違い、『ガシャが壊れていることが発覚』する場合、あなたならどのようなコメディーにするか、執筆してください。そのシーンから、ケータとウィスパーが家路につくまでを書くこととします。

◇『劇場版アイカツ!』で、本編では描かれていない『大スター宮いちごまつりを観に来てくれるよう、大空あかりが神崎美月を説得するシーン』を書いてください。

『妖怪ウォッチ』の講評コメントで重要だと思われるものをいくつか紹介する。【子どもの価値観を意識しているか】ガシャに100円を入れて戻ってこないとしたら、子どもはどう反応するのか。【視聴者の目線をもっているか】普通に疑問に思うようなことをちゃんと取り扱い、更にはギャグにできているのか。【名乗りや初登場は早めに】登場キャラクターはもったいぶらずに出してから話を発展させる。
【キャラの第一声はキャラの方向性を決める】加藤氏はできるだけ印象的な第一声を心がけているのだという。【キャラの感情の流れには十分に気を遣う】展開は突飛でもいいが、キャラクターの感情、生理をおざなりにしないことは重要だという。

続いて『アイカツ!』では、加藤氏が実際に課題のシーンをリアルタイムに書き進めていくという時間となった。こちらも重要なポイントを紹介する。【印象的な場所で展開させる】展開させようとするシーンに適さない場所にキャラクターがいるのなら、移動させるべき。【細かい芝居をさせる】『アイカツ!』では心理描写も大切にしている。
どうリアクションするのか、目線はどこか等々、細かく芝居をさせている。【不要なシーンは書かない】初対面の二人に必ず自己紹介の挨拶をさせる必要はなく、時間経過や場所移動を挟むことで、「二人は名乗り合った」と想像させることは可能。

■ まずは書いてみよう

最後にQ&Aのコーナーだ。加藤氏は映画を見る際も、純粋に楽しんで見るという。また、脚本執筆の際に参考になるテレビ番組は海外TVドラマと答えた。『妖怪ウォッチ』の話数構成で気をつけていることは、ギャグを量産できるシチュエーションを最初に用意することだそうだ。
企画や脚本執筆で気をつけていることは、決め台詞を作る際はキャラの特性と一致させること、視聴者目線でわかりやすく書くこと、原作がある場合は原作をとにかく大事にすること、だという。

加藤氏は実にきめ細やかにシナリオを書き進めているのだと実感した。作品毎に大切にしているポイントを変えている。その中で最大限「イメージを膨らませて」どんなやりとりが効果的かを想像する。最終的に「たのしんでもらう」ことを意識していることも印象的だった。

アニメのシナリオライターになるには現場にいることが重要だ。本講座で田中氏も「会議・打ち合わせの場にいられることは学ぶことも大きい」と、アニメの制作などの仕事をしながら脚本家にアプローチすることを薦めていた。
なお、加藤氏は「現場では脚本家は不足している。書いたものを送っちゃってもいいと思います」と語った。確実な方法ではないだろうが、そのくらいの意志を持っていることは重要ではないだろうか。ノーベル賞作家のバルガス=リョサも「まずは作品を途中で投げ出さずに完結させること」と言っている。
加藤氏の講座内容をふまえつつ、楽しみながら書き上げる。そうすればどこかの賞に応募することも可能だ。講座の参加者から次代の人気作家が出ることを期待したい。