英国のファミリー向けアニメーション成功の鍵 日本とのビジネス連携を探る

[オフィスH: 伊藤裕美]

■ 国際共同製作や外資誘致へ舵を切った、英国アニメーション

ヨーロッパでは、文化産業の経済波及力への期待から、欧州連合(EU)、各国、さまざまな地域・地方が文化産業の活性化や誘致を競う。EUは80年代後半から映画産業振興プログラム「MEDIA」を通じて文化産業を涵養してきた。フランスの文化産業政策もつとに知られている。他国も、成功したフランスに続けと、映画やアニメーションを筆頭に文化産業への助成を高めてきた。
英国はEUの一角を占めながら、ほかとは異なる道を選んできた。BBCという世界に冠たる公共放送局に加え、アニメーション専門チャンネルのヨーロッパ拠点が集中し、英語圏の強みでグローバルな流通力を誇る。不朽のピーターラビット、ウォレスとグルミット、ひつじのショーン、きかんしゃトーマス、くまのパディントンなど、日本も含め世界中の子どもの気持ちをつかみ、親たちの財布の紐を緩ませてきた。映画、テレビ、広告、ディジタルメディアをまたぐ制作と配給・放送のエコシステムを享受してきた英国が、国際共同製作や外資誘致へ舵を切った。

昨年11月に英国大使館と英国貿易・投資総省(UKTI)は「日本企業にとってのビジネス機会」という副題をつけた英国アニメーションのセミナーを開催し、ヒッチンズ駐日英国大使が、日本と英国のアニメーション産業はそれぞれの歴史と経験、そして得意とするスキルがあるが、英国を5億人のEU圏へのゲートウェーとして相互補完的な協調関係を築こうと呼びかけた。

■ 英仏合作『パディントン』の大ヒット

パディントン 日本公開は2016年春(予定)。  (C) Paddington and Company Limited/Studiocnal S.A. 2014
パディントン
日本公開は2016年春(予定)。
(C) Paddington and Company Limited/Studiocnal S.A. 2014

英国では2014年第1~第3四半期に1億ポンド(約185億円)を超すアニメーション企画が制作ないしプリプロダクションされた。英仏合作『パディントン』は昨年12月に公開されると、ドリームワークスの『Penguins of Madagascar(ザ・ペンギンズ from マダガスカル)』を軽く押さえ、2週連続で動員1位となった。Media Business Insightによると、国外販売の1200万ドルを加えると、7500万ドル(約90億円)の興行収入が見込まれる(2014年12月28日、Jeremy Kay 記名記事)。
「ハリーポッター」シリーズのプロデューサー、デビット・ヘイマンが手がけた『パディントン』は、実写に3DCGの主人公パディントンを合成した。『ゼロ・グラビティ』のVFXを担当したFramestoreなどの英国のスタジオがCGとVFX制作を担った。

製作は、フランスのメディアグループ、Canal+傘下で汎欧州の映画製作、配給販売を行なうStudioCanalと、英国に拠点を置く汎欧州のメディアファンドAnton Capital Entertainment(ACE)などの英仏合作。
ACEは2011年にStudioCanalとスレート・ファイナンシング(映画製作資金調達)契約を結び、StudioCanal製作映画の30%に出資し、相互補完的な世界配給で合意した。両社は共同の資金調達でリスクを軽減しながら製作規模を大きくし、グローバルヒットの機会を広げるとして、延べ5億ユーロで100本ほどを製作する。そこから『パディントン』のヒットが生まれた。

Animal Vegetable Mineralが開発した「Gamecast TV」を用いた「RaceCraft」。  番組フォーマットライセンスとして販売される。  (C) Animal Vegetable Mineral 2014
Animal Vegetable Mineralが開発した「Gamecast TV」を用いた「RaceCraft」。
番組フォーマットライセンスとして販売される。
(C) Animal Vegetable Mineral 2014

■ 英国のアニメーション支援制度

11月の英国アニメーションのセミナーで、英国貿易・投資総省(UKTI)のクリエイティブ・デジタルメディア分野スペシャリスト、マーク・リーバー氏は、「エコシステム」の働きと、アニメーション業界人の活力と対応力を強調した。

英国では文化産業のクラスター都市が成長し、ロンドンに集まるのはアニメーション関連企業の3割。残り7割は地方都市にあり、制作会社が集まる。「ウォレスとグルミット」や「ひつじのショーン」で知られるアードマン・アニメーションズが拠点を置く、イングランド中西部のブリストルはストップモーション・アニメーションで知られ、スコットランドの中心都市ダンディーにはゲーム/デジタルエンターテイメント系が集積。ウェールズのカーディフはコンピュータアニメーション、イングランド北西部のマンチェスターもメディアセンターを核に制作会社が興隆する。手書きやストップモーションのアニメーション、CGI(3DCG)、インタラクティブ・コンテンツと、新旧技術への対応力が高い。高等教育機関は世代交代を促し、産業人口の半数が35歳以下だ。

さらにアニメーション界の悲願であった優遇税制が導入され、制作会社を窮地から救った。2013年4月にアニメーション、14年4月にビデオゲームに対する新税制が開始され、国際共同製作や外資導入に弾みをつけた。アニメーション優遇税制は放送(含インターネット配信)向けアニメーションが対象で(劇場公開映画には別制度有)、プリプロダクション、撮影・アニメーション制作、ポストプロダクション等の制作費の少なくとも25%を英国における活動に関連させれば税額控除が受けられる。
ちなみに日英間は国際共同製作の条約がないため、対象となるには英国映画協会(BFI)が定めるCultural Test(ポイント制)の規定を満たし、「文化的に英国の番組として認証」されねばならない。
昨今の状況では、英国の制作支援や優遇税制がほかと比べて特段に優位とは言えない。しかし、ファミリー/子ども向けアニメーションの制作とグローバル展開に強い英国業界の追い風になる。

■ 英国のニュー・クラシック、オールド・クラシック

 Messy Goes to Okido (C) Doodle Productions 2014
Messy Goes to Okido
(C) Doodle Productions 2014

セミナーでコンサルタント会社Serious LunchのCEO、ジェネヴィーヴ・デクスター氏が自ら関わるプロジェクトを紹介し、新興の制作会社との協働を促した。デクスター氏は25年前にマンガの買い付けで来日して以来、いち早く「ポケモン」に注目するなど、英国のアニメーションだけでなく、日本のマンガ・アニメの鑑識眼も持つプロデューサーだ。

デクスター氏によると、多くのコンテンツ資産を抱える日本でも関心が高い、旧作再生の“ニュー・クラシック”と“オールド・クラシック”が英国で成功している。同氏がSquint/Operaと共にロンドンに設立したEye Presentは、児童雑誌「OKIDO」から生まれた小さなモンスターの「Messy Goes to Okido」をCGIと実写でアニメーション化。まもなくBBCの児向け編成放送CBeebiesでシリーズ放送が始まる。

同じく新興スタジオFactoryは、「ザ・シンプソンズ」シリーズの脚本家ジョッシュ・ウェインスタインを起用した「Strange Hill High」を世界最大規模のテレビ制作会社FremantleMediaと共同製作。2013年にBBCの子ども向け編成放送CBBCで放送開始後、エミー賞アニメーション部門などにノミネートされるなど、“hypervynorama(ハイパーヴィノラマ)”と呼ぶ、パペットのストップモーション、実写とCGIの融合が高い評価を得ている。
これらは新技術で旧作を再生させた“ニュー・クラシック”だ。“オールド・クラシック”としては、Factoryが著名なパペット工房Mackinnon and Saundersと共に70年代のヒットシリーズ「The Clangers(クランジャーズ)」をストップモーションのままでリメークしている。

さらにニューメディアとして、ロンドンのAnimal Vegetable Mineral(AVM)社の「Gamecast TV」が紹介された。
AVMはミックスリアリティのコンテンツと技術開発を得意とし、テレビ番組をUnity 3Dベースのアプリに転用し、視聴者がタブレットでゲームができる「Gamecast TV」を韓国のベンチャー企業と共同で開発して、英国の放送局への提供を始めた。HD撮影の実写番組を低コストでゲームへ転用できるゲームエンジンとツールキットを含む、番組フォーマットライセンスとして日本の放送局への販売が期待される。

コンサルタント会社Serious Lunch 創立者兼CEOのジェネヴィーヴ・デクター氏
コンサルタント会社Serious Lunch 創立者兼CEOのジェネヴィーヴ・デクター氏

■ 日英の相互補完関係の可能性

デクスター氏は、日本の放送局は海外番組の購入に消極的で、アニメーション業界は国際共同製作に二の足を踏むものの、日英の両国民は新技術への関心が高く、高規格テレビや携帯電話などに見られるように「新しい物を持ちたい」という欲求が強いという共通点があると言う。
英国のアニメーション界では、新技術に柔軟に対応しながら高いコンテンツ力を持つ制作者の興隆、全国に分散する拠点、さらに公的支援の刷新が図られてきた。多くの制作会社は中小規模だが、自由度と活気がある。チャンスとなる外資導入や被買収も嫌厭しないという。
「日本のプロデューサーはグローバル市場に目を向け、国外でも息の合ったパートナー」を見つけるべきと、デクスター氏は助言する。

アニメーションの国際共同製作がこれほど脚光を浴びるのは、各国に制作会社や拠点地域が増え、自国民に歓迎される自国アニメーションで充足する放送局がわざわざ“外国製”を買わなくなったからだ。また急拡大するネットコンテンツに対抗・共存するためのマルチな高規格プロジェクトの製作費高騰とリスク対策もある。日本のアニメは熱烈なコアファンが海外にいるものの、商圏はニッチに留まり、ドル箱となるファミリーや子ども向け市場への参入に苦戦する。
デクスター氏は続ける、「日本企業は日本国内のIP管理しかしておらず、英国企業はグローバルIP管理に長けている」。島国という国民性の近さと長い通商関係に基づく信頼がある日英で、グローバル市場向けの相互補完関係を強めようと、英国のアニメーション界は日本に誘い水を向けている。

英国のアニメーション会社との共同製作や投資、企業買収などに関する問い合わせ

英国貿易・投資総省(UKTI)
ukti_invest.tokyo@fco.gov.uk (駐日英国大使館内)
ukti_invest.osaka@fco.gov.uk (英国総領事館内)

[オフィスH 伊藤裕美]