成長するブラジル・アニメーション 5億人の巨大市場を手中に収める政府の英断-後編-

5億人の巨大市場を手中に収める、ブラジルのアニメーション
政府の英断 資金調達制度と有料テレビ法がアニメーションを輸出産業へ -後編-

[オフィスH: 伊藤裕美]

■ アニメーションは輸出に有利、支援制度の充実

マルケジーニ氏
マルケジーニ氏

ブラジルのテレビドラマはラテンアメリカで人気がある。アニメーションは実写よりも人種の表現制約が少なく、表現の自由度が高い。ドル箱のファミリー層を動員できる。ドラマに続けと期待される。
2000年代、パソコンの低廉化、アニメーション制作ソフトToon BoomやFlashの普及でアニメーション制作が標準化された。新興国、小規模や起業間もない制作スタジオがグローバル市場へ出るチャンスが増えた。

ブラジルはカナダとの協力関係が強い。カナダの文化産業支援政策をモデルにした制度がブラジルにもたらされた。連邦政府が放送事業者などから徴収した税をANCINE(ブラジル国家映画庁)が再配分(投資)する「FSA」(オーディオビジュアル部門基金)もそうだ。
「国際共同制作から、先進的な制作や流通のノウハウを得られる」と各氏は言う。国際共同製作条約は、アルゼンチン、カナダ、チリ、フランス、イタリー、ドイツ、スペイン、ポルトガル、ベネズエラ、インドと締結している。さらに、中国、イスラエル、ロシアとの間で締結協議を進め、ラテンアメリカ諸国とは多国間条約も持つ。
非締結国との国際共同製作にもインセンティブが適用される。ブラジル企業が40%以上のIPを保持すること、スタッフと出演者の2/3はブラジル市民であること(あるいは3年以上ブラジルに住む外国人)という条件を満たせば、公式な国際共同製作と見なされる。

2D LABのリエバン氏によると、英語/フランス語圏であるカナダは、出資、脚本、英語の吹き替えなどで組むメリットがある。氏はカナダの共同製作パートナーと時間を掛けて信頼関係を築いた。業界代表団の一員でカナダへ派遣されたのをきっかけに、国際マーケットでの面談を繰り返し、短編を実制作と同じように共同で試作して理解を深めた。相互理解から国際共同製作は始まる。
メディア・コンテンツ制作会社250社ほどが加入するABPITV(ブラジル独立系TVプロデューサー協会)は国外の国際マーケットへの参加を促し、2011年に「リオ・コンテンツマーケット」を始めた。ブラジル・アニメーション協会も2003年に発足し、200人ほどのアニメーターが加入し、政府へ公的支援を要望してきた。

■ ブラジル・アニメーション界の人材不足

2011年有料テレビ法でブラジル製アニメシリーズへの需要が高まった。大規模な制作経験が少なく、シリーズ制作できるのは5、6社程度とタヴァレス氏は言う。現在第一線で活躍する人たちが第一世代で、国内にアニメーションの教育機関がなく、彼らは独学で技術を習得した。
「ブラジル人のアートセンスは高いが、スキルは未熟」と言うリエバン氏は、社内に実務者向けの養成コース「CRIA 2DLab」を始めた。ドローイング、手書きアニメーション、2Dディジタルアニメーション、ディジタルペインティング、ストーリーボード、予算や納期などの制作管理を月単位のコース制で教える。外部のアニメーターも受け入れる。
優秀なアニメーターは引く手あまただ。テレビアニメの活況だけでなく、今年のサッカー・ワールドカップと2016年リオデジャネイロオリンピックがある。アニメーターはプロジェクト契約で雇用される。制作スタジオにとって、プロジェクトの規模により人員調整しやすく、社会保障費の負担がない。2D LABは40~100人、Copa Studioは20~80人の間でアニメーターを調整する。両スタジオとも切れ目なく制作を続けることで、優秀なアニメーターを確保する。

メディア・コンテンツ産業は南東部のサンパウロとリオデジャネイロで発展した。ブラジル政府は経済開発が遅れた北部と北東部の開発を重視する。リエバン氏は「遠隔地間の制作」の準備を始めた。国内に分散するだろう優秀な人材とも共に制作するという展望だ。

■ 世界で受ける、ブラジル独自のアニメーションを目指す

宮崎駿監督はブラジルでも人気だ。しかし日本がクールジャパンと呼ぶ、日本流のマンガやアニメは広く知られていない。サンパウロなど、日系人コロニーがある都市にはマニアはいるが、アメリカ風カートゥーンが優勢のCATVに流れるアニメは日本流から程遠く、子どもはそれを観て育つ。Copa Studioのダヴァレス氏は言う、「宮崎アニメは大好きだ。しかし日本独自のスタイルで、同じものを作ろうとしてもブラジルには人材がいない。日本のスタイルを真似るのではなく、ブラジル独自のアニメーションを作りたい」。日系人以外のブラジル人にとって、日本は地理的にも、心理的にも遠い存在のようだ。
日本にも、ブラジルがメディア・コンテンツの市場と制作地として大きな可能性を持つことが伝わっていない。筆者が運営に携わる「SEA – コンセプト開発マスタークラス」は南米、ヨーロッパ、日本の3 地域間の国際共同製作とネットワークを目的に今年2月にデンマークで実施された。3地域から集まったコンセプトアーティストやアニメーションディレクター15名が混成グループで5本のコンセプトを開発した。そのうち2ないし3本はテレビシリーズや長編映画のプロジェクト化が期待される。

日本人デザイナーを中心にグラフィックコンセプトをまとめた、子ども向けアニメーションはブラジルの米国系CATVの目に留まり、シリーズとして制作・放送へつながる道筋が見える。ブラジルから参加したプロデューサーは脚本開発とアニメーションテストを始めたいとする。アイデアを出した日本にも期待が掛かるが、日本流アニメでない新コンセプトに国際共同製作を申し出る企業は現れるだろうか。

■ クールジャパンに固執する日本は孤立する

株式会社 オールニッポン・エンタテインメントワークス(ANEW)を、財務省と経済産業省は3年前に立ち上げた。「日本国内の企業及び個人が保有するコンテンツ(ストーリー/キャラクター等)に対し、海外展開に向けて企画開発等を行い、収益を獲得することを目的とする」(同社HPより)。株式会社産業革新機構が60億円を出資した。筆者がSEAで開発されたプロジェクトに対し企画開発の投資を打診したところ、ANEWは一顧だにしなかった。対象がハリウッドでない、実写でない、日本のマンガ等の原作ものや日本映画のリメークでないことが拒否の理由らしい。

メディア・コンテンツ市場として成長するラテンアメリカでブラジルは優位なポジションだ。ヨーロッパはラテンアメリカ進出を本格化しつつある。少し前まで中国に向かっていたフランスもブラジルを注視する。ヨーロッパも、ブラジルも、「英語圏でのビジネス」を重視する。ターゲットは“ハリウッド”だ。それを攻略する戦略、行程は日本と異なるようだ。ヨーロッパとブラジルは歴史的につながりが強く、言語・宗教の共通性がある。その二者がタッグを組み始めた。ハリウッドを介するだけがグローバル化ではない。

日本では、東京で2002年から13年まで毎年開催された「東京国際アニメフェア」が「アニメ コンテンツ エキスポ」と統合され、「AnimeJapan」が始まった。日本のアニメ業界が総力を結集するという。今年3月の第1回では商談が隅に追いやられ、会場は“コスプレショー”に化した。ビジネスショーとして機能しないという批判から、来年は「ビジネスの進化」「海外ビジネス面の進化」を掲げ、落ち着いて商談できるビジネスエリアを一般客が入る総合エリアから隔離する。有力海外バイヤーを呼び込み、懇親会等マッチング機能を充実させるという。
気になるのは、“日本アニメの販売”だけをビジネスとしていることだ。ここまで紹介したように、日本の外ではグローバル市場攻略として共同製作が重視される。プロジェクト早期からの協業が標準化しつつある。いつまで日本はその動きを傍観するのだろうか。

■ プリスクール向けから国際共同製作を始めよう

マルケジーニ氏は米国で任天堂のライセンシーの経験があり、日本企業とも接してきた。その氏ですら「他国との仕事が充実していて、今は日本相手の仕事を必要としない」と言う。日本企業とは、MIPCOMなどで顔合わせはしてきた。会場で名刺交換をした後は何ら進展しない。国際マーケットに来る担当者に決定権がないのか、「本社に持ち帰る」と言われたまま放置された。国内だけを見てきた日本は、日本流以外のアニメ、日本流以外のビジネススタイルに関心を示さない。その間に、ブラジルはグローバル市場に躍り出た。
国際ビジネス経験からマルケジーニ氏は、「日本は国際共同製作に早く乗り出すべき」と助言する。日本が「クールジャパン」と自負するコンテンツは世界的にはニッチだ。日本との関係が強いと思われているブラジルですら、日本人コロニーがあるサンパウロ以外では日本流マンガ・アニメはマイナーだ。日本はマニアやヤングアダルト、いわゆる“大きいお友だち”に向かうが、海外ではまずファミリー、そして親世代を巻き込めるプリスクールや低学齢児童をターゲットとする。
「プリスクール向けから共同製作を始めるのが良い」。国によって文化・好みの差が出る前に新しいコンテンツに触れさせるのだ。マルケジーニ氏はその先に広がる、大きなファミリー市場を見通す。ブラジルの活況に、「ハリウッドにできて、自分たちにできないことはない」という自負を感じた。