北米のマンガ事情 第25回 「アメリカのコミックス市場で存在感を増すクリエイター・オウンド作品」 前編

 

文化輸出品としてのマンガ-北米のマンガ事情 第25回
「アメリカのコミックス市場で存在感を増すクリエイター・オウンド作品」‐前編‐

椎名 ゆかり
アメリカの大学院でポピュラー・カルチャーを学び帰国後、マンガを専門とする出版エージェント業やアニメ、マンガ関連の翻訳者他、海外マンガを紹介する様々な仕事を行ってきた。
翻訳マンガ:『ファン・ホーム』『メガトーキョー』『ブラック・ホール』『デイトリッパー』他
ブログ:「英語で!アニメ・マンガ」 http://d.hatena.ne.jp/ceena/

Nowhere Men, by Eric Stephenson and Nate Bellegarde:2014年のアイズナー賞、「Best Continuing Series」部門ノミネートの1作品
Nowhere Men, by Eric Stephenson and Nate Bellegarde:2014年のアイズナー賞、「Best Continuing Series」部門ノミネートの1作品

コミックスのコンベンションとして始まり今ではサブカルチャー全般を扱うアメリカの一大イベント、サンディエゴ・コミコン・インターナショナルが今年は7月24日~27日に開催され、例年通りコミックスの「アカデミー賞」とも言われる「アイズナー賞」も発表された。

アイズナー賞の顕彰対象は細分化されていくつもの部門があるが、中でも筆者が特に注目したのは、連載中の作品を対象とした「Best Continuing Series」部門。ノミネート作品5作品中4作品が、大手の出すスーパーヒーロー作品ではなく、制作者が著作権を所有する「クリエイター・オウンドcreator-owned」と呼ばれる作品だった。
この2部門のノミネートにおけるクリエイター・オウンド作品の多さは、現在のアメリカのコミックス市場におけるクリエイター・オウンド作品の存在感の大きさを反映していると言っていいだろう。

それでは、そもそもクリエイター・オウンドとは何だろう?なぜそう呼ばれるのか?そして、クリエイター・オウンド作品が存在感を増しているのはなぜか?今回のコラムでは、最近アメリカのコミックス業界注目の「クリエイター・オウンド作品」に焦点を当てて考えてみたい。

<クリエイター・オウンド(creator-owned)とは?>

「クリエイター・オウンド」という言葉の意味は上で述べたように「作者が著作権を所有する」であり、これは、日本のマンガ界では基本的に当たり前のことだ。もちろん例外を挙げればいくつもあるが、一般に日本で「ストーリーマンガ」として知られ、雑誌に連載されて単行本にまとめられるような作品では、編集者と二人三脚で作品を作った場合でも、その作品の著作権は作者のみに属する。そして作者は本が出ると出版社から印税を受け取る。

しかし、これは必ずしもアメリカのコミックス業界では当たり前のことではない。アメリカのコミックス業界の大手2社の出版する“メインストリーム”とも呼ばれるスーパーヒーロー作品群では、作品の著作権はストーリーを作ったライターや絵を描いたアーティストに属さず会社が所有する、というのはよく知られたことだ。

個々の作品に対するライターやアーティストの権利の内容は、出版社と結んだ契約によってそれぞれ異なるので、すべてを単一のものとして語るのは難しい。ただ、スーパーマンやスパイダーマンというキャラクターは出版社が所有するプロパティであり、コミックスを制作するライターやアーティストは、制作に対する報酬は得られるものの、作品に対する権利を持たないのが普通である。

当然これにも例外はある。自費出版は別にしても、独立系出版社からも、そして更に大手からも作者が自分の作品に対して権利を有する作品は出版されてきた。マーベルもDCコミックスもそのためのインプリントを(短命の場合もあったが)立ち上げてきている。特にDCコミックスのヴァーティゴ(Vertigo)インプリントは、批評家から高い評価を受ける作品を現在でも出し続けている。とは言え、その中でも商業的に成功するのは一部の作品に限られ、市場に存在感を誇示するまでには至らなかった。それに対して、大手2社のスーパーヒーロー作品は、コミックブックを基本とするアメリカのコミックス市場(これ以降、このコラムで言うアメリカのコミックス市場とは、主にコミックブックとその単行本を扱う「ダイレクト・マーケット」と「一般書店」市場を指す)を長い間圧倒的に占有してきており、これらの大手スーパーヒーロー作品における商慣習が業界のスタンダードと考えられてきたのである。

つまり、作者が作品に対して権利を持つことが“当たり前ではない”状況が市場の前提であり、作者が権利を持たない作品が多数派とみなされてきたがゆえに、少数派である「作者が著作権を有する作品=クリエイター・オウンド作品」を区別する欲求、もしくは必要が生じたと言えるだろう。