北米のマンガ事情 第21回 米国のYURIマンガ専門出版社創設者 エリカ・フリードマン氏インタビュー ‐後編‐

文化輸出品としてのマンガ-北米のマンガ事情 第21回
「アメリカでYURIマンガ専門出版社を立ち上げたエリカ・フリードマン氏インタビュー」 後編

椎名 ゆかり
アメリカの大学院でポピュラー・カルチャーを学び帰国後、マンガを専門とする出版エージェント業やアニメ、マンガ関連の翻訳者他、海外マンガを紹介する様々な仕事を行ってきた。現在は文化庁のメディア芸術を推進する部署で研究補佐員として勤務中。
翻訳マンガ:『ファン・ホーム』『メガトーキョー』他
ブログ:「英語で!アニメ・マンガ」 http://d.hatena.ne.jp/ceena/

 

エリカ・フリードマン氏の手がけた訳書の一冊
エリカ・フリードマン氏の手がけた訳書の一冊

<アメリカでの「yuri」マンガ>

■椎名:
フリードマンさんは、日本のマンガもアメリカのコミックスもお読みになられるということですが、同性愛を扱った日本のマンガとアメリカのコミックスには、違う点がありますか?

-エリカ・フリードマン氏:
大雑把に言うと絵柄以外は、基本的には同じだと思います。世界中で同性愛の人は自分が同性愛者だと気付いた時から、同じ状況を経験しているからです。「両親にはどう話したらいいだろう?」「友だちに話したら、どう思うだろう?」「そもそも、同性愛者であることを人に話すべきなんだろうか?」とか。

最近、竹宮ジン先生のマンガ『steps』(一迅社、2013年)を読み、2013年のベストマンガだと確信しました。『steps』は日本で百合マンガと認識されている作品で、珍しく登場人物がレズビアンであることを認めています。
通常、百合マンガでは、女性同士の恋愛的な関係が描かれても、正面きって「レズビアン」という言葉を使うことはまれです。でもこの作品では、登場人物が自らをレズビアンだと認め、レズビアンのスラングも使われています。そして、自分が同性愛者であることを恥じてはいない、という意味のセリフを言うのです。こういうロール・モデルが若い人には必要である点も、世界共通だと思います。

幼い頃には何をしたいのか、何になりたいのか、わからないものです。でも成長していくにつれて、自分のことが徐々にわかってくると自分の物語が語られているのを見たくなったり、読みたくなったりします。そしてそれぞれが、自分に合った表現方法を見つけようとします。
コミックスやマンガというのは、自分で語るためのひとつのツールでもあります。自分が何者かを人に知らせるための物語を紡ぐツールで、どちらかと言うと始めるのが容易なツールだと言うことができるかもしれません。

■椎名:
Yuri マンガを作るアメリカの作家さんはたくさんいますか?

-フリードマン氏:
ほとんどいません。「yuri」に限らずアメリカの市場は小さすぎて「マンガ業界」というものが存在していません。マンガ家になりたいという人はたくさんいますが、作品を発表する場所がネットの限られた場所しかなく、アメリカの読者はお金を出して買う場合は日本のマンガを買い、アメリカ人の描いたマンガを買おうとはしないのです。

日本には、雑誌がたくさんあってデビューの機会も多くありますし、専門学校だけでなく大学や、マンガ家のアシスタントなど、マンガについて学ぶ場もたくさんありますが、残念ながらアメリカにはそのような場所はありません。アメリカのマンガ読者も、JUMP作品など一部を除いてお金を出してマンガを買おうとしません。結局、マンガ文化が育たないのです。

■椎名:
やはりスキャンレーションの問題も関係あるのでしょうか?

-フリードマン氏:
スキャンレーションはあまりにネット上に蔓延しているため、既にもうある限度を超えて、一種の勢力になってしまいました。スキャンレーションがとても簡単に読めるので、読者はわざわざ複数のプラットフォームに散在している日本のマンガのデジタル版のそれぞれを追いかけてまで読もうという気になれないと思います。
ただ、日本の出版社がデジタルに対する意識を劇的に変え、日本の紙出版と同時にデジタル版を出し、更に1か所でその多くの作品にアクセスできるようになれば、状況は変わると思いますが。

<アメリカでの日本のマンガ>

■椎名:
フリードマンさんから見て日本マンガの北米での現状をどう思いますか?

-フリードマン氏:
日本のマンガは一時期と比べて、少し盛り返してきた印象です。マンガ読者の数は全体数が小さいながらも増えているとは思うのですが、市場は大きくはなっていません。
先ほど言ったように、スキャンレーションが関係していると思います。でも日本マンガのデジタル版の売上が正確にはわからないので、現時点でのデジタル市場規模について把握するのは難しいです。

アメリカでは日本と違ってコミックスの文化がとても小さい上に、読書のデジタルへの移行が急速に起こっています。恐らく自分の世代が、子供の頃コミックブック(日本では「リーフ」とも呼ばれる30ページ前後の小冊子)でコミックスを紙で読んだ最後の世代になるのではないかと思います。
わたしが出版業界に関わりを持ち始めた90年代後半から考えると、状況は劇的に変化しました。そして今は完璧にデジタルの時代です。昔は「紙」という世界的な標準フォーマットがありましたが、今は標準フォーマットが日々変化していると言えます。これは日本ならずとも、出版する側にとっては厳しい状況です。

わたし個人はデジタルでマンガがもっと出て欲しいし、マンガが紙だろうとデジタルだろうと構いませんが、アメリカのマンガ読者には紙の本を買いたがるコレクターが多くいるのも確かです。

現在アメリカでとても人気のある『進撃の巨人』では、かつてアメリカの市場で起こらなかったことが起こりました。それは、日本との時差が少ないアニメ配信とマンガ出版です。アニメがCrunchyroll他で無料で日本と同時配信を行い、そして紙の単行本がアニメ人気で次々と出版されて日本との出版時差がかなり縮まったのです。
意外に思われるかもしれませんが、アメリカで、アニメとマンガの公式版が日米でほぼ同時に出たことは過去にありませんでした。

『進撃の巨人』はアニメ配信とその人気がマンガの人気と売上につながった良い例ですが、面白いことに、アメリカのマンガファンのコミュニティでよく名の知られている人物たちの多くが、アニメにまったく興味を持っていません。年齢的なことも関係しているのかもしれませんね。

「yuri」ジャンルで言うと、例えば最近One Peace Booksという新興出版社が『コミック・アライブ』に連載していた『ささめきこと』(いけだたかし)の英語版を出版すると発表しました。細々ながら「yuri」ジャンルの作品がアメリカで出るのは嬉しいことです。後日、出版社の方にインタビューをすることになっています。

■椎名:
様々な日本マンガが海外で翻訳されることは個人的にも嬉しく思います。今日はインタビューをお受けくださり、ありがとうございました。

-フリードマン氏:
こちらこそ、ありがとうございました。

前編はこちら http://www.animeanime.biz/archives/18875
中編はこちら http://www.animeanime.biz/archives/18882