北米のマンガ事情 第21回 米国のYURIマンガ専門出版社創設者 エリカ・フリードマン氏インタビュー ‐中編‐

文化輸出品としてのマンガ-北米のマンガ事情 第21回
「アメリカでYURIマンガ専門出版社を立ち上げたエリカ・フリードマン氏インタビュー」 中編

椎名 ゆかり
アメリカの大学院でポピュラー・カルチャーを学び帰国後、マンガを専門とする出版エージェント業やアニメ、マンガ関連の翻訳者他、海外マンガを紹介する様々な仕事を行ってきた。現在は文化庁のメディア芸術を推進する部署で研究補佐員として勤務中。
翻訳マンガ:『ファン・ホーム』『メガトーキョー』他
ブログ:「英語で!アニメ・マンガ」 http://d.hatena.ne.jp/ceena/

 

『YURI MONOGATARI』
『YURI MONOGATARI』

<「yuri」マンガについて>

■椎名:「yuri」という言葉について説明していただけますか??

-エリカ・フリードマン氏:
わたしが使っている「yuri」という言葉は、日本のアニメやマンガファンが言う「百合」とは違うと思います。

90年代にアメリカでファンの数が急速に増えた時に、全員とは言いませんが、多くのファン達が「yuri」という言葉を女性同士の性的関係を表す物語のジャンルとして使っていました。そしてそこには、女性同士の恋愛を扱っていても、男性読者のための性的な物語というニュアンスが含まれていました。

同時に「shoujoai」という言葉も使われました。過去、日本で「少女愛」と言うと幼い少女へのフェティシズムを指していたこともあったと思いますが、特に同性愛的な意味はなかったと思います。
ただ、アメリカのファンの間では「shounenai」に対して「shoujoai」という言葉が作られ、露骨に性的な表現の無い、女性同士の恋愛の物語として使われていました。例えば、90年代後半の『カードキャプターさくら』などを「shoujoai」が描かれた作品として見る人もいました。

同じような使い分けはBL好きなファンの間でも行われていました。男性同士の恋愛を描いた物語の中で「yaoi」は性的に露骨な表現を含むもの、「shounenai」は性的に露骨な表現を含まないものと区別したのです。こういう使い方が日本での「ヤオイ」や「少年愛」の意味とは違う、ということはわかっていましたが、アメリカのファンはこの使い方を好んだのです。

ただし、アメリカのファンの中でも、「yuri」と「shoujoai」の使い分けは人によって違い、ある作品が女性の同性愛者向けか、異性愛者の男性向けかは人によって判断がわかれます。

そこで、わたしたちは「yuri」の、もっと広い定義を提唱することにしました。アニメやマンガにおける女性同士の愛情を描いた物語全体を「yuri」と呼ぶことにしたのです。
つまり、どんな作者がどんな読者に向けていても関係なく、そして性的表現の有無も関係なく、女性同士の愛情が描かれている作品であれば、それをすべて「yuri」と呼ぼう、というのがわたしたちの提案です。

例えばBLなら大多数の作品が女性作家の手により女性読者に向けて描く作品と言っていいと思いますが、わたしたちの提唱している「yuri」では、作家は男性でも女性でもあり得るし、実際に男性同性愛者でyuriを描いている人をわたしは知っています。更に「yuri」は男性向けの作品や女性向けの区別をしません。
例えば森島明子さんの作品は絵柄がとてもかわいらしく、男性向けとも女性向けとも言える作品です。

■椎名:
フリードマンさんは、「yuri」をテーマとしたコンベンション「Yuricon」を主催していらっしゃいました。

-フリードマン氏:
2003年、2005年、2007年と3回行い、200名から300名が参加しました。

■椎名:「ヤオイ」をテーマとした「YAOI-CON」とは、随分雰囲気が違うものだったと聞いたことがあります。

-フリードマン氏:
「Yuricon」は「YAOI-CON」とは、まったく印象が違うイベントだったと思います。「YAOI-CON」では、例えば檀上で美少年が性的なダンスを踊るようなイベントも行われたようですが、「Yuricon」では、そういうことは一切行わず、登場人物やストーリーについてディスカッションするシンポジウム等がメインでした。
わたし自身が、「yuri」作品の登場人物や物語について語ることが大事だと思っていたからです。大きなイベントではありませんでしたが、「Yuricon」で色々な人と出会い、「yuri」について色々調べ始めるきっかけとなりました。

今はALC Publishingの出版事業を止め、「Yuricon」もやっていませんので、個人的に大事だと思って進めているのは「yuri」の研究です。
今回日本に来て、鎌倉にある吉屋信子記念館に行きました。少女小説家として知られる吉屋信子さんの作品は「yuri」の原型と言ってもいいかもしれません。わたしがALC Publishingで出していたアンソロジー『YURI MONOGATARI』は彼女の『花物語』にならってつけました。

21世紀のレズビアンの視点で20世紀前半に活躍した吉屋信子さんの作品を解釈することの問題は認識していますが、それでも吉屋さんの作品には明らかに女性同士の恋愛感情がコード化された形で表現されています。
『少女革命ウテナ』のマンガやアニメを見ていた時、吉屋信子さんの『屋根裏の二處女』の翻訳版を読んでいたので、『ウテナ』に『屋根裏の二處女』と同じシーンがあることに気が付きました。その時から「yuri」の歴史について意識するようになり、過去の作品の中に現在の「yuri」作品の原型とも言えるシーンが沢山あることもわかりました。

次に研究したいと思っているのが、『少女の友』に連載された中里恒子さんの『乙女の港』です。この作品は、姉妹的な関係性を描いたもので、同性愛を描いた作品ではないですが、この作品と『少女の友』も「yuri」の研究で重要だと思っています。
同じような興味を持つ友人ふたりと一緒にこの時期の作品を読み、チャットなどでディスカッションしているので、いつかこの研究を本にできたらと考えています。

■椎名:
出版事業を止めていらっしゃるということで、今のお仕事は何でしょう?

-フリードマン氏:
製薬会社で、フルタイムの研究者として働いています。出勤する必要が無く、家で仕事をしています。朝起きると、コーヒーを淹れて、コンピューターのスイッチを入れて仕事を始める。この仕事のやり方には満足していますし、仕事自体も気に入っています。

後編はこちら http://www.animeanime.biz/archives/18887
前編はこちら http://www.animeanime.biz/archives/18875