北米のマンガ事情 第21回 米国のYURIマンガ専門出版社創設者 エリカ・フリードマン氏インタビュー ‐前編‐

文化輸出品としてのマンガ-北米のマンガ事情 第21回
「アメリカでYURIマンガ専門出版社を立ち上げたエリカ・フリードマン氏インタビュー」 前編

椎名 ゆかり
アメリカの大学院でポピュラー・カルチャーを学び帰国後、マンガを専門とする出版エージェント業やアニメ、マンガ関連の翻訳者他、海外マンガを紹介する様々な仕事を行ってきた。現在は文化庁のメディア芸術を推進する部署で研究補佐員として勤務中。
翻訳マンガ:『ファン・ホーム』『メガトーキョー』他
ブログ:「英語で!アニメ・マンガ」 http://d.hatena.ne.jp/ceena/

 

エリカ・フリードマン氏
エリカ・フリードマン氏

小説、アニメ、マンガなどで「百合」と呼ばれるジャンルがある。ウィキペディアによると「女性の同性愛、またはそれに近い友愛のこと。また、それらを題材にした各種作品」とのこと。実際には「百合」の定義は人によって意見が分かれるようだが、ニッチとは言え、『百合姫』という隔月刊の専門マンガ雑誌も発売されるなど、少なくとも日本のマンガ読者には、ある程度認知されているジャンルと言えるだろう。

アメリカでも日本アニメやマンガのファンの間で日本の「百合」ジャンルにならい、「yuri」という言葉が使われている。日本と同様にその定義は揺れている中、アメリカ独自の「yuri」の定義を提唱し、そのジャンル専門のマンガ出版社を立ち上げた人がいた。
今回のコラムでは、アメリカで「yuri」マンガ専門の出版社ALC Publishingを2000年に設立し、「yuri」を専門とするコンベンションも主催したエリカ・フリードマン(Erica Friedman)氏にアメリカでの「yuri」マンガと日本マンガの状況についてお話をうかがった。

ALC Publishingは残念ながら今年で13年に渡る出版事業に幕を降ろしたが、その創業者であるフリードマン氏は以前と変わらず「yuri」ジャンルのファン・コミュニティの中心であり続け、「yuri」ジャンルだけでなく、日本のマンガ全般についてもネット上で活発に発言している一人である。そしてご自身が、同性愛者であることを公にし、大学などで「yuri」マンガについて講演も行っている。
このインタビューは、フリードマン氏が10月に神奈川大学で講演するために来日した時に行われた。

<きっかけは『セーラームーン』>

■椎名:
フリードマンさんが日本マンガに興味を持ったきっかけは、なんだったんでしょうか?

-エリカ・フリードマン氏:
1998年にカトゥーン・ネットワークで放映された『美少女戦士セーラームーン』のアニメを見てからです。『美少女戦士セーラームーンR』の放映が終わり、もっと見たくなって、ファンサブ(ファンが権利者から許可を得ずに付けた字幕)の付いたVHSテープを手に入れました。
ファンサブの付いたVHSを買うのは良くないことだとわかっていましたが、あの頃は日本のアニメを見る手段が他になかったのです。会ったことも無い人にお金を送って、本当に送ってもらえるかどうかもわからないテープを待って、ようやく見ることができる、という時代でした。

とにかく、そうやって見た『美少女戦士セーラームーンS』の第3話で天王はるかが海王みちるにかけた声は、それまでわたしが聞いた中で最もセクシーな声でした。これをきっかけに、ただのアニメ・マンガファンから、OTAKUになったんです(笑)。

『セーラームーン』に出てくるすべての戦士たちが好きになり、2000年代の初めごろまで相当のお金と時間を『セーラームーン』に注ぎこみ、ネット上で同じ趣味を持つ人とたくさん出会いました。ちょうどその頃、アメリカで『少女革命ウテナ』が出て、それとは別にBL人気も出始めていた頃でした。
ネット上でファンのコミュニティが出来始めていましたが、誰も「yuri」について語っていなかったので、知人たちと一緒に自分でコミュニティを作り始めたんです。

■椎名:
『セーラームーン』のアニメを見る前は、アニメやマンガに興味は無かったんですか?

-フリードマン氏:
それほど興味はありませんでした。父親の影響もあって6歳からアメリカのコミックスを読んでいましたが、ある時期に以前ほど読まなくなりました。

子供の頃、妹と一緒に『マッハGO GO GO(英語名:Speed Racer)』や『宇宙戦艦ヤマト(Star Blazer)』のアニメを見ていました。でも、FEDEXやDHLが簡単に使えず、インターネットも無かった80年代に、日本のものを趣味にするのはお金と労力がすごくかかったので、意識的に熱中しないように気をつけていました。
でも『セーラームーン』を見て、すっかり大ファンになり、独学で日本語を勉強するようになりました。

■椎名:
アメリカで昨年、『セーラームーン』が再出版されて大ヒットしました。

-フリードマン氏:
とても嬉しかったです。アメリカで最初に出たTOKYOPOP版をひどかったとは言いませんが、素晴らしいとは言い難いものでした。再出版されたものは、色々な点で良くなっていると思います。

ただ、ローカライズについて言うと、わたしはすべてをオリジナルのままで出版するというのが正しいとは思いません。子供向けの作品では特に、馴染みの無い日本文化が出てくるとそこで興味が削がれてしまうこともあります。
例えば、『セーラームーン』ではうさぎが肉まんを食べるエピソードが出てきますが、アメリカのテレビでは肉まんがドーナツになっていました。個人的には、この変更は問題ないと思います。

中編に続く http://www.animeanime.biz/archives/18882