海外のコンベンション参加人数増加は、アニメ・マンガ人気のバロメーターか? 第4回 ANIMEやMANGAに対する受容の変化

2013年のサンディエゴコミコンの会場。コミックスに由来しない作品も多い。
2013年のサンディエゴコミコンの会場。コミックスに由来しない作品も多い。

文化輸出品としてのマンガ-北米のマンガ事情 第19回-4
海外のコンベンション参加人数増加は、アニメ・マンガ人気のバロメーターか?

椎名 ゆかり

 

■ ANIMEやMANGAに対する受容の変化

現在、北米において日本のアニメやマンガをテーマとしたコンベンションは、「日本産の作品のファン“だけ”が集まる場所」ではない。そして、少なくとも参加者からは「日本産の作品“だけ”を楽しむイベント」であることも期待されていない。
もちろん以前から、日本産以外の作品を目当てに、日本のアニメやマンガのコンベンションに参加している人はいただろう。しかし、現在はその割合が増加しているようだ。

それは、日本のアニメやマンガのコンベンションに来れば楽しめるものの範囲が広がってきた、ということであり、ANIMEやMANGAという言葉で代表されるものが拡大し、日本産に留まらず、それまでは含まれなかった周辺のサブカルチャーをも含むようになったことを意味する。わかりやすい言い方をすると「ANIMEっぽい」「MANGAっぽい」とする作品範囲が拡大した、とも言える。更に別の視点から見ると、「ANIMEやMANGAは、アメリカのある種のサブカルチャーの一部としての認識が定着した」と言ってもいいかもしれない。そのため、そのサブカルチャーに興味がある人全体がANIMEやMANGAのコンベンションに参加するようになったとも推測できる。

このような状況を、北米における80年代の日本のアニメやマンガの状況と比較してみると面白い。当時、日本のアニメやマンガは大雑把に言うとSFという大きなジャンルの中の一部のカテゴリーとしてみなされていた。そして今、日本のアニメやマンガはブームとその収束を経て、今度はSFではなく(重なる部分もあるとは思うが)別のサブカルチャーの一部となってきたのである。

アメリカ人のアニメファンの知人から、「日本アニメのコンベンションのことを、日本アニメ好きが集まる場所というだけでなく、日本産、非日本産のどちらのアニメやマンガとも関係なく、“何か楽しいイベントをやっているところ”として認識する参加者が増えている」という話も聞いた。

このような変化には、日本のアニメやマンガに対する一般の認知がブームによって一時的に高まったことも大きく関係しているに違いない。加えて、日本のアニメやマンガの視覚的スタイルに近い非日本産作品が数多く作られるようになったことや、日本産の視覚的スタイルに海外の人が慣れてきたことも関係あるだろう。
作品自体を鑑賞するのが大変だった90年代中盤まで、原産国にこだわる熱心なファンがファンダムの大多数を占めていた。現在も熱心なファンはしっかり存在している一方で、ANIMEやMANGAと日本を必ずしも結びつけないANIMEファン、MANGAファンも増えている。
そしてANIMEやMANGAのコンベンションに参加する人は、自分の好きな作品が実際にANIMEやMANGAと呼ばれているかどうかもこだわらない。ANIMEやMANGAという言葉で連想されるある種のサブカルチャーに何らかの親和性があると思えば、原産国どころかANIMEかMANGAであるかどうかにもこだわらないのだ。

実は、少し違うが似たような例として、毎年夏に行われるサンディエゴのコミックスのコンベンション「Comic-Con International San Diego (SDCC)」を挙げてみたい。このコンベンションは、間違いなくアメリカ最大のコミックスのコンベンションである。受入れに上限を設けているため、劇的に来場者が増えることはないが、年々盛り上がりが大きくなり、近年では街中を巻き込むお祭りになっている。

コミックスのコンベンションとは言っても、同コンベンションは映画やテレビ等の他メディアの作品も取り込み大きく成長し、拡大してきた。特に近年ではスーパーヒーロー映画に出演したハリウッドスターにとどまらず、コミックス原作を持たない人気TVドラマの主演スターの来場も珍しくなくなり、派手さも増している。しかし本来のテーマであるコミックス自体の存在感は会場で同じように増しているわけではない。むしろ年々低下している、という人もいるくらいである。

明らかにSDCCに参加する多くの人々は、SDCCがコミックスのコンベンションだとわかっていても、コミックスだけを目当てに訪れるわけではない。コミックス出版社のブースに並んで毎年大きく目立つのは「スター・ウォーズ」等の実写の映像作品のプロパティを扱ったブースであり、オモチャ会社やゲーム会社のブースである。

これと同じことが「Anime Expo」等の日本のアニメやマンガをテーマとしているコンベンションに起こっているとは言えないだろうか。つまり日本産のアニメやマンガのファンに限定されない人々が増加し続けていることで、コンベンション全体の参加人数が増えている可能性だ。
SDCCでコンベンションの参加人数は増加しても、本来のテーマであるコミックスの存在感が低下しているように、日本のアニメやマンガをテーマとしたコンベンションにおける日本産アニメやマンガの存在感は、全体の参加人数では計れないところで、下がっているのかもしれない。

ANIMEやMANGAの市場やファンダムは北米ではメインストリームではないものの、この現象をANIMEやMANGAが北米の文化の一部となって一般化したと捉えると、そこにはANIMEやMANGAの市場拡大の可能性を見ることができるかもしれない。
しかし、一般化によって以前は魅力の一部であったかもしれない異質性や新規性は既に失われているとも言えるだろう。日本産の作品を売ろうとする時、この状況をどう見るかは、「日本」というブランドを打ち立てたいのか、個々の作品を売りたいだけなのか等、戦略によって変わり、課題もまた異なる。

いずれにせよ、北米でANIMEやMANGAは日本の専売特許ではないことは周知の通りであり、更に心に留めておかないといけないのは、北米においてANIMEやMANGAという言葉が日本語の「アニメ」や「マンガ」とは違う意味を持ち、その意味は時と共に変化している、という点だ。
海外における日本アニメやマンガの受容について考える時、その点に意識的でなければならないと個人的には強く思っている。