北米のマンガ事情 第17回 「北米のマンガ読者とスキャンレーション」-1- by 椎名ゆかり

■マンガを卒業する読者

椎名 : 
そして現在、北米マンガ読者には、10代前半から高校生が多いとよく言われますが、高校を卒業すると同時にマンガを読むのも卒業するというのは本当でしょうか?

ブッチャー氏 : 
今はそうだと思います。統計的数字が手元にあるわけではありませんが、日本のマンガを読む読者はほぼ男女半々で、若い読者が多いです。
大学に入るとマンガを読むのを止める人が多いのには、色々な理由があると思いますが、大学生以上の人が読む作品がアメリカでは一部の青年マンガを除くとほとんど出ていないことも影響しています。

椎名 : 
でもそれは出版する側から考えると、売れないから出せないという事情にも思えます。需要が無いから供給できないのです。

ブッチャー氏 :
確かに「卵が先か鶏が先か」という問題ですね。ただ、実際に大学生以上のマンガ読者は、読みたいと思える作品がほとんど翻訳されていない、と思っているのも確かです。

椎名 : 
女性マンガで言うと、例えば宙出版が現地法人を立ち上げて「ハーレクインロマンス」などの女性マンガを出版する野心的な試みもありました。

ブッチャー氏 : 
「ハーレクインロマンス」の小説自体が北米で人気が低下している傾向にありますし、出版された他の作品が恋愛ものに限定されていたのも、売り上げにつながらない要因だったように思います。

椎名 :  
お話を聞いて思い出したことがあります。わたしは、アメリカのニュースサイトのポッドキャストをよく聞くのですが、そこで比較的年長のアニメファンが時々言うのが「アメリカでの日本アニメの人気低下は、最近の作品にアメリカ人の好みに合う作品が少ないことが原因だ。アメリカのファンがアニメに飽きたのではなく、日本のアニメが“萌え”の要素を多く取り入れる方向に変わってきたから見る作品が無い」という意見です。
つまり80年代後半や90年代にアニメやマンガのファンになった人にとっては、見たり読んだりしたい作品が少なくなってきたという不満がある、ということのようです。

ブッチャー氏 :  
そういう意見はわたしもよく聞きます。その意見には正しいとも思える点もありますが、もちろんそれだけではありません。
正しいと思える点は、日本のアニメの主人公に幼く見える少女が増えたという印象があることに起因しています。一部の子供向けのアニメを除くと、アメリカ人には幼い(または幼く見える)女の子が主人公の作品を好まない人が多くいます。それに、少年マンガや青年マンガでも全体に少女マンガ的な絵柄が昔よりも増えた印象もあり、20代の男性の興味をそそらない場合も多いと言えます。
とは言え、当然のことながら、”萌え”要素が強いと思えるものの中にも素晴らしい脚本やストーリーの作品があり、それだけで見るアニメがなくなってきたと言ってしまうのには問題があると思いますが。

椎名 : 
個人的な印象で言うと、北米のオルタナティブ・コミックスと呼ばれる文学的な作品の読者の年齢層は高いのではないかと感じます。ただしオルタナティブ・コミックスの読者と日本のマンガを読む読者は一部の作品を除くと重ならない印象です。

ブッチャー氏 : 
そうですね。オルタナティブ・コミックスの読者の年齢層は高いと思います。そしてわたしやディブのように、マンガというメディアが好きで、日本のマンガが好きであると同時に北米のマンガ、そしてBD(フランス語圏のマンガ)も好きという人もたくさんいると思いますが、全体で見るとやはり少数派ではないでしょうか。

椎名 :
オルタナティブ・コミックスやBDの読者は何故日本のマンガを読まないのでしょう?

ブッチャー氏 : 
それにはやはり「偏見」が大きく作用していると思います。悲しいことに、日本のマンガに対して、目が大きくて、非現実的な体型をした登場人物が多く登場する、暴力的でエロティックな作品だという「偏見」を持つ人が多いのです。この「偏見」により、読者は選択の幅を自ら狭めているのだと思います。
でもこれは北米に限らずどこにでもある話で、実際に日本でも「スーパーヒーロー作品は単純で深みが無い」という「偏見」を持ってる人はたくさんいると思いますよ。

椎名 : 
もともと北米にはマンガ全体が子供のものという意識が強くあるとは思いますが、それでも北米産のオルタナティブ・コミックやBDよりも、日本のマンガは子供のものだと認識(もしくは「偏見」?)がずっと強いようですね。
ひとつにはそのために結局新しい読者が入ってきても、10代後半もしくは20代の前半になると読むのを止めてしまうということなんでしょうか。

ブッチャー氏 : 
そういう場合も多いと思いますね。

PART2 ■スキャンレーション」に続く

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