北米のマンガ事情 第15回 北米で日本マンガは今でも人気なのか -1- by 椎名ゆかり 

文化輸出品としてのマンガ-北米のマンガ事情
第15回
「北米で日本マンガは今でも人気なのか - 北米のマンガ人気と“クール・ジャパン”」 PART1

椎名 ゆかり
アメリカの大学院でポピュラー・カルチャーを学び帰国後、マンガを専門とする出版エージェント業やアニメ、マンガ関連の翻訳者他、海外マンガを紹介する様々な仕事を行ってきた。現在は文化庁のメディア芸術を推進する部署で研究補佐員として勤務中。
翻訳マンガ:『ファン・ホーム』『メガトーキョー』他
ブログ:「英語で!アニメ・マンガ」 http://d.hatena.ne.jp/ceena/

先月開かれたコミックスのコンベンションNew York Comic Con(NYCC)で、ポピュラーカルチャーの業界向け情報サイトICv2のパネルが行われ、2011年から2012年上半期にかけてのコミックス市場を概観した白書(以下「白書」)が発表された。
今回、当コラムではこのICv2の「白書」に加えてBookscanなどの情報から 、久しぶりに北米における日本産マンガの市場の概況について簡単にお伝えしようと思う。加えて、北米でのマンガ人気と「クール・ジャパン」について、筆者の考えを少し書いておきたい。

北米マンガ市場の現状

このコラムでも時々触れている通り、北米において日本産のマンガの売上は年々下がっている。2011年の数字を見るとおよそ1億5百万ドルで、前年より13%下がり、2012年の上半期では前年の同時期よりも35%減少した。特に2012年上半期の下げ幅が大きいのは、2011年の大手書店チェーンBorders倒産による影響が大きいようだ。

最盛期には日本産マンガの売上の40%、倒産時でも30%を占めていた同書店の閉店は日本産マンガには大打撃だった。アメリカ全土に650店ほど展開していたBordersは、その清算過程で2011年前半に全店舗のおよそ35%を閉め、同年後半には残りを閉店した。
全店舗で行われた閉店セールは駆け込み需要を促し、2012年前半の売上低下はこの閉店セールによる購買増加の反動と言われている。つまり2012年上半期に買われるはずだった本が、セールの影響で2011年後半に駆け込みで買われた、ということらしい。

ちなみに、Bookscanによる2011年の日本産マンガの人気作品を売上順に見ると、『Naruto』『ポケモン』『セーラームーン』『黒執事』『青の祓魔師』『デスノート』などになる。アメリカで制作された日本マンガに似た絵柄の作品を含むと、『Twilight』『Maximum Ride』(両作品とも絵を担当したのは韓国のアーティスト)がそれぞれ3番目と4番目に入る。2012年上半期では『セーラームーン』が1番売れているということだ。

参考までに述べておくと、アメリカ産のコミックスの売上は堅調である。2011年は前年に比べてほぼ横ばいで、コミックブック(30ページほどの小冊子状のコミック)とグラフィックノベル(単行本)を合計して、「MANGA」カテゴリーの売上のおよそ5倍となっている。2012年上半期は昨年の同時期と比較して5%ほど伸びた。

2012年上半期の35%減は特別としても、日本産マンガの売上は2007年をピークに毎年二桁の下げ幅で落ちている。売上低下について毎年「底を打った」とする見方が出るが、その予想は残念ながらことごとくはずれてきた。
そして上半期の売上が前年比35%減となることが明らかになった今、2011年で下げ止まったと考える要因は少なくとも現時点では無く、この調子で行くと2012年の売上も相当厳しいものになるだろう。

とは言え、「日本のマンガは今でも以前と同じように人気がある」という言説も根強くあるのは事実だ。これは売上の数字として表に出ないところで人気があることを意味し、多くの場合「日本のマンガは今でも人気があって多くの読者がいるが、著作権者に許可なくスキャンして翻訳されてネット上にアップロードされている通称スキャンレーションの氾濫が購買数低下を招いている」とする見方に基づく。

どれだけのスキャンレーションが存在するのか、どれくらいのマンガがスキャンレーションで読まれているのか、正確に知ることは難しい。
ただ、膨大な数のスキャンレーションが存在するのは明らかであり、売上の低下を招く要因のひとつとなっていることは間違い無い。

2ページ目 北米でマンガは今でも人気があるのか?へ続く