デジタル・フロンティアが語る 『おおかみこどもの雨と雪』と『サマーウォーズ』における3DCG表現の違いとは 後編

  最後に紹介されたのが、雨と雪による疾走シーン。ここでは、シニアアーティストの元生晃司氏が解説した。雪原の森中を駆け抜けるというシーンだが、CG制作においては、「絵コンテで表現された疾走感を大切にする」というコンセプトを大切にしたと元生氏。カメラ決めが大切である3DCGでは、絵コンテを元にまず、プリビズ(アニマティクス)を作っている。絵コンテから、キャラクターの動きを切り抜き、3Dモデルの樹木を追加したものを制作したのだが、最初の段階では疾走感が足りないと感じたと元生氏。そこで、疾走感を表現するという点で参考にしたのがなんと、『スターウォーズジェダイの帰還』のスピーダーバイクによるチェイスシーン。キャラクターとカメラの間によぎる樹木が「疾走感」を高めると感じ、シーンに追加していったという。
 同時に、撮影用に設置する3DCGソフト内のバーチャルカメラの後部にも樹木モデルを設置。これは撮影時に影を投影することを意識してとのこと。これにより、キャラクターの移動スピード自体は変える事無く、森中を駆け抜ける雰囲気を高めることに成功したという。

  また、雪の表現については、影が重なったときのブルーの雰囲気にも注意を払いながら決定していったという。「本来プリビズはもう少しラフなのですが、クライアントがアニメ監督ということもあり、出来るだけプリビズの段階からクオリティを高め安心させたかった」と元生氏。
 監督からOKを得ると、カメラ位置を決定し、主人公キャラの作画担当アニメータに渡すための素材を作成する。これには、アニメータが作画をするための配慮を数多く施してある。具体的には、モデルの設置が分かるように半透明にしてある点、作画時にキャラクターの足の配置を分かりやすくするために前面の雪の部分にグリッドを設けるなどだ。

 次の工程が、編集、アフレコ用の線撮。キャラクターは線画のままであるものの、動きがかなりスムーズになっている。その次の段階で納品するのがタイミング撮。右上に赤丸がついているのはキャラクターの色がまだ仮であるという事の意。
 通常、キャラクターの色は、色彩設計の人から背景美術が上がってきてから決定される。だが背景美術が上がってきてない段階で仮の色を入れているため、誤って最終工程として納品されるのを避けるために赤丸を画面端に入れているのだ。背景美術が確認出来たところで、光の方向と影の動きを決めて行く。CG作成にあたっては、花畑のシーンと同様にレイヤー分けを行い、影、かすみ、空気感などもすべて背景美術を参考に調整していく。近接素材用テクスチャと、中遠景用樹木テクスチャも背景美術の設定をもとに作成。50枚以上の資料をもとに、アニメ的な質感にこだわったと元生氏。
 最終シーンまでには被写界深度、モーションブラーを追加するのに加え、キャラクター自体に木の影を、セルによるキャラクターか雪面へと投影される影なども追加している。このようにして2Dアニメの表現に3DCGならでは緻密な背景素材がシームレスに統合されていく。

 

 本講演で公開された制作秘話はここまでだが、『おおかみこどもの雨と雪』では、制作工程の合成プロセスから、背景、並びにアニメ的な群衆シーンといった部分など、広くにわたって数多くの新たな試みが行われた事が明らかとなった。ここまで大胆な試みは、細田監督とデジタル•フロンティアの長年のパートナーシップによる信頼関係無しにはあり得ないであろう。同時に、これを機に、アニメ、CGといった明確な役割分担の境界が曖昧になった事は、双方にとって更なる新たな表現方法の土俵を生み出したとも言える。
 講演の最後は「これからも2Dと3DCGの融合は更に進む」と締めくくった豊嶋プロデューサー。デジタル・フロンティアと、細田守監督のパートナーシップのこれからが楽しみな一言だ。

【参考URL】
デジタル・フロンティア
http://www.dfx.co.jp/
おおかみこどもの雨と雪」公式サイト
http://www.ookamikodomo.jp/