デジタル・フロンティアが語る 『おおかみこどもの雨と雪』と『サマーウォーズ』における3DCG表現の違いとは 後編

デジタル・フロンティアが語る
『おおかみこどもの雨と雪』と『サマーウォーズ』における3DCG表現の違いとは
後編

 

■ 『おおかみこどもの雨と雪』が目指す、2Dと3DCGの完全融合

 細田守監督による最新作『おおかみこどもの雨と雪』については、トレイラーのシーンを中心にCGパートが如何に使われたかについて説明がなされた。どのトレイラーを見ても一見、CG合成は含まれていない様に見える同作だが、「実は『サマーウォーズ』よりも多くのCGが使われている」と豊嶋プロデューサー。
 この点については、堀部氏によれば、『サマーウォーズ』では、仮想空間—コンピュータの世界、つまりCG世界そのものを作りあげるという、ストレートなオーダーだったとのこと。具体的には、セルアニメの作業工程上不可能な、無数のアバターによるモブシーン、OZの巨大な空間など、CGならではの表現に注視すればよかったというわけだ。

 それに対し『おおかみこどもの雨と雪』で与えられた課題は、「背景美術の質感のまま、背景そのものを動かす」つまり従来のアニメにおいて「雪や雨など業界内で定式化されていた表現」をCGで刷新すること、「車、群衆、虫」等の表現、並びに「空間表現に統一感を持たせた画面づくりにする」というものだった。
 これに加え、アニメ制作の制作プロセスそのものも刷新。従来のアニメは、アニメスタジオが絵コンテをもとの作画、背景美術などをおこない、CGが必要な場合は、CGスタジオに発注し、CGスタジオは、CG/VFXパートをアニメスタジオに納品し、全ての素材をアニメ統合し、合成するのは、アニメスタジオの撮影部だった。『おおかみこどもの雨と雪』では、むしろ動画パートをデジタル•フロンティア側に入れてもらい、合成もCGチームが一括してやるという工程を採用した。
 最終的な合成をアニメスタジオ側がおこなうという作業工程は、10年前まで、背景画を撮影台上に設置し、その上にセル画を入れ、一枚一枚撮影し作品を作り上げていったというアナログ撮影における撮影担当の仕事の名残であるという。ここ10年におけるデジタル化の発展によりデジタル合成が標準化されてからは、デジタルアニメでの合成と、CGスタジオが行う合成に境界が無くなっていたのだ。
 そこで本プロジェクトでは、大テーマとして「背景美術とCGの統合を図ることによる2Dアニメと3Dアニメの融合」を掲げ、抜本的なプロセスエンジニアリングに取り組んだのだ。この辺は、従来のアニメ制作の名残が残る企業では実現しにくいイノベーションであるだけに大変興味深い。結果的に、「CGの作業ボリュームは『サマーウォーズ』の5倍にも及んだ」と堀部氏が明かし会場を驚かした。

 それに続き、トレイラーの具体的なシーンから、いくつかカットを選び、制作裏話を披露。まずは、動的な背景美術の例として、夢の中で花びらがゆれるシーンを挙げて解説。セルアニメのように1コマ1コマ描くには資金も時間もない中、これらの花びらを、ポリゴンオブジェクトに背景美術をはりつけ、それを変形させたり、物理シミュレーションをかけたりすることで動かすという手法で採用。画用紙に水彩で着色されたものを背景画の美術設定をスキャニングし、CGチームへ渡すところからはじめたと堀部氏。
 堀部氏は、作業に入る前に本物の動きを研究するために、富山でのロケハンに同行し、植物園などでも参考動画を撮影した。更に美術設定時の夢のような雰囲気を細田監督と打ち合わせながら、光の設定で 再現。光の飛び具合なども美術設定に近い雰囲気が出せるように様々な資料を探し出して研究、作品の中に取り入れていったとのこと。
 また、背景も複数のレイヤーに分け、遠方はあらかじめぼかしを入れることを前提に 若干ラフにモデリングし、中近接レイヤーについては立体感が出る形でモデリングをおこなった。動きについても、全般的な動きは物理シミュレーションにたよりつつ、雄しべが動くといった部分は、アーティストが手づけで動きを誇張している。ここに、花粉の粒子を追加、近接と遠景レイヤーへのぼかし入れ、ライティングで光を飛び具合も調整し、トレイラーにある幻想的な花畑のシーンが完成した。
 「ここまで来ると一瞬実写かと思うのですが、注意深くみると美術監督による筆跡が見えるのです」と豊嶋プロデューサー。

 また、街中の喧噪を表現したシーンについても言及。ここでは、主人公のハナのみが作画によるもので、その他の人々や自転車、車の往来といったものはすべてCGで表現された。
 モーションキャプチャで様々な通行人の動きをキャプチャ。この街中のシーンは、季節の移り変わりを表現するために使われるため、全てのキャラクターを個別にデザインしたうえで、洋服の変化などにもこだわったと堀部氏。更に映像表現においてもアニメの作画に近いかたちを再現したとのこと。
 例えば、アニメにおいては遠方のキャラクターは、アニメならではの省略の表現で顔などのディテールを敢えて細かくは描かないと、堀部氏。また、人体モデルは、作画のときの全体像の描き方を『サマーウォーズ』の作画をベースに徹底的に研究。腕や、脚なども細身にディフォルメ化する傾向があることを踏まえモデリングそのものの調整もおこなったとのこと。
 また、モーションキャプチャの動きをそのままアニメに入れると、あまりにもリアリティがありすぎ、アニメパートにおける作画の動きと合わなくなってしまうと、堀部氏。そこで敢えてコマ落ちを表現したり、動きを誇張させるといった工夫をこらしたという。更に輪郭線も、作画されてあがってくるハナの輪郭線の幅などを参考にしつつ他のCGキャラクターにもほぼ同等の細さで輪郭線を追加している。

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