北米のマンガ事情第13回 MANGAの描き方を学ぶ アメリカでの需要 PART4

文化輸出品としてのマンガ-北米のマンガ事情
第13回
MANGAの描き方を学ぶことに対するアメリカでの需要について PART4

椎名 ゆかり
アメリカの大学院でポピュラー・カルチャーを学び帰国後、マンガを専門とする出版エージェント業やアニメ、マンガ関連の翻訳者他、海外マンガを紹介する様々な仕事を行ってきた。現在は文化庁のメディア芸術を推進する部署で研究補佐員として勤務中。
翻訳マンガ:『ファン・ホーム』『メガトーキョー』他
ブログ:「英語で!アニメ・マンガ」 http://d.hatena.ne.jp/ceena/

■ MANGAという文化

「How to Draw Manga Character」と題した今回のワークショップに参加した理由を尋ねたアンケートの問いに対して、「マンガ・スタイルの絵の描き方を学びたかったから」と答えた人が多かった。そして「普段マンガを描いているか」という質問に「いいえ」と答えた人の中にも「西洋的なコミックスのスタイルの絵なら描く」と答えた人がいた。
これらの答えから多くの参加者がCOMICSとMANGA、更には「マンガ・スタイル」とそうでないスタイルを区別していることがわかる。

『ニューヨークの高校生、マンガを描く ―彼らの人生はどう変わったか―』(マイケル・ビッツ著、沼田知加訳、岩波書店、2012年)では、同じようにマンガをアメリカ産のスーパーヒーローコミックスと区別する高校生の姿が描かれている。
この本は、ニューヨークの貧しい地区に住む、恵まれない境遇の高校生たちがマンガを描く行為を通して変わっていく様子を描いたノンフィクションだ。課外活動の一環として生徒達を指導したビッツ教師が、“マンガを描く”という行為の教育的効果について、個々の生徒を例に挙げて実証していく。

生徒たちはアメリカの「スーパーマン」や「バットマン」のコミックスを「バカげている」と切り捨てる日本のマンガの熱狂的な読者だが、本に再掲された生徒達の作品は日本人の目には必ずしも日本のマンガらしく見えるものばかりではない。
しかしそれでも著者のビッツ氏はこう考える。「生徒にとって、マンガ・スタイルに忠実であることが大切」であり、「生徒には自分のマンガがたった一つのこと――つまり、マンガそれ自身を反映していることこそが重要」(上掲書、41ページ)だった。

ここまで実は無造作に「マンガ・スタイル」という言葉を使ってきたのだが、「マンガ・スタイル」と言っても、日本のマンガにも多様なスタイルがあり、実際のところ「マンガ・スタイル」がどういうものか、定義することは難しい。「マンガ・スタイル」と言った時、人によっても思い描くスタイルが違う可能性も高い。

ただ確かなのは、上掲書に登場する生徒たちがどんな絵柄で描いていようとも、本人たちは西洋的な「コミックス」ではなく、「マンガ」が描きたい、もしくは「マンガ」を描いていると思っている、ということである。
言い換えると「マンガ・スタイル」が個々人にとってどういうものであれ、または他人からどう見えるものであれ、本人たちがマンガだと思っている限り、それは西洋的なコミックスCOMICSとは別のスタイルを持ったMANGAとなる。

以前このコラムでマンガはアメリカではコミックスのひとつのジャンルとして捉えられていると書いたが、更に言えばマンガMANGAとはひとつの”ブランド”である。
コミックスと差別化するというマーケティング的要請から使用され流通したマンガMANGAという言葉はひとつの“ブランド”として機能し、21世紀に入りアメリカで一定のファンを獲得することで、ある程度定着した。

そしてそのMANGAブランドの楽しみ方はいくつもある。「マンガを読む」、「マンガを描く」、「マンガでコミュニケーションをとる」等、すべてをひっくるめて、MANGAブランドの文化への参加行為ととらえることができるかもしれない。その場合、「マンガの描き方」ワークショップに来てくれた人たちも皆、マンガ文化への参加者である。

そう考えると「アニメ・エキスポ」では、多くの人がマンガ文化に参加している。プロやセミプロのアーティストがブースを並べる「Artist Alley」が年々人気を増し、毎年マンガやアニメのキャラクターに扮した数多くのコスプレーヤーがフロアを闊歩している。
ただ、今年はあるアメリカ産人気ウェブコミックの格好をするコスプレーヤーが目立った。個人的にその作品の絵柄が「マンガ・スタイル」なのかはよくわからないが、あれだけ多くのコスプレーヤーがいたということは、この作品も「アニメ・エキスポ」の扱う文化に含まれると考えた人が多かったのは間違いない。

「マンガ・スタイル」で作品を描く海外のアーティストが登場してきて、日本アニメ・マンガのイベントにアメリカ産のコミックスのコスプレが増えると聞くと、マンガが日本から離れていくと危惧する人もいるかもしれない。
しかし、アメリカではマンガブームが去ったと言われ、少なくとも売上は落ちている中、マンガという文化を支える個々の作品の一部がどこの国のものであれ、MANGAというブランドが魅力的であり続けることが最終的には(日本産のマンガにとっても)重要である。
結局、海外でも「マンガを読む」人だけでなく「マンガを描く」人が増え、コミュニティ内で活発にコミュニケーションが行われ続けることが、MANGAブランドの魅力の維持につながるのだ。

「マンガを読む」読者への作品の提供だけでなく、「マンガを描く」人や「マンガでコミュニケーションをとる」人に対しても日本側からできることはまだたくさんあるのではないだろうか。

■ PART1 「アニメ・エキスポ」とは
■ PART2 「マンガの描き方」を学ぶことに対するアメリカでの 需要
■ PART3 「マンガの描き方」ワークショップ
■ PART4 MANGAという文化