未来を見るディズニーCEO

 今年の4月からウォルト・ディズニーグループが開始したiTuneを利用した同社グループの映像コンテンツ販売は大きな衝撃だった。
 そうしたビジネスが今後起こることは十分予測出来たが、それが思った以上に早く、それを行ったのが業界では権利ビジネスの強硬派で保守的とされるディズニーであったからだ。

 しかし、ディズニーが著作権について驚くほど革新的な考えを持ってビジネスを進めていることが、7月22日の日本経済新聞のウォルト・ディズニーCEOボブ・アイガー氏へのインタビュー「そこが知りたい ネット時代のコンテンツ市場は?」から伺い知れる。
 アイガー氏はこのインタビューで、インターネットに非常にポジティブに今後積極的に利用する姿勢はっきりと示しているからだ。
 さらにアイガー氏の考え方は、国内外で違法なファイル交換やダウンロードが蔓延する日本のアニメ作品の今後のありかたにも大きな示唆を与える。

 例えば、アイガー氏はネット上のファイル交換についてこう述べている。
「消費者は明らかに音楽のネット配信を望んでいた。だが音楽業界はそれを無視して既存の流通を維持しようとしたためネットでの違法交換が流行した。」(7月22日日本経済新聞朝刊より引用)

 そして、iTuneの登場とビジネスの成功を必然と指摘する。違法な音楽ダウンロードは今でもあるが、多くの消費者はインターネット上の音楽は購買するものとして普通にiTuneを受け入れている。そこでは企業と消費者双方の利益が実現している。
 違法だった市場に有料で正規に進出することは、国内外の違法なアニメ作品のファイル交換行われている現状の問題解決に応用できるかもしれない。

 また、現在主流の動画の配信でなくダウンロード販売に移行することについても、アイガー氏の考え方は他の大手メディアよりもはるかに革新的である。
「とはいえ現在主流のコピー禁止のパソコン向け配信では消費者は満足しない。そのうち映画もダウンロードしてDVDなどにコピーして好きな場所で好きな装置で楽しむものになる。」
「だがネットで失うものより得るもののほうが大きい。~(中略)~より多くの人がコンテンツを消費するようになる可能性がある。」(同引用)

 現在の日本のアニメ作品のネットでの展開は有料、無料を問わず、まさにコピー禁止のパソコン向け配信である。多くの企業は、ダウンロード販売を視野に入れていない。しかし、今回の発言から海外ではかなり早い段階でダウンロード販売・売り切り型のビジネスが一般化する可能性が高い。
 日本企業も、消費者のニーズの重みをもう一度考える局面に近い将来直面するかもしれない。

 また、インタビューはインターネットが中心となっているが、キャラクターの利用についても興味深い発言をしている。
「誰もがコンテンツを楽しみ自由に創造活動が出来るように、コピーや(パロディなどの)二次利用に対する制限を今より柔軟にすべきだろう。」(同引用)

 キャラクターの2次利用に極めて厳しいとされる同社が、パロディなどの2次創作への規制は今より緩くしてもよいと考えていることは驚きである。
 
 現在のディズニーの革新性は、テクノロジーとコンテンツの両方を持っていながら、最後まで音楽のネット配信を拒み、インターネット上の巨大な音楽マーケットを失ったソニーと対照的である。たとえどんな大企業であっても時代の流れを変えることは不可能である。
 そうであればリスクがあり既存ビジネスの一部が失われると分かっていても、時代の流れを積極的に利用しなければいけない場合もある。現在のディズニーにはそうした確かな意志があるようだ。
[数土直志]