サバンと戦隊シリーズの不思議な人生

サバンという会社がアメリカにある。米国の日本コンテンツ事情に詳しい人なら、この会社が日本の『戦隊シリーズ』に大胆な編集を行い『パワーレンジャー』というタイトルにより米国で放映し大ヒットさせた会社として知っているだろう。
この『パワーレンジャー』の大ヒットが、米国企業に日本コンテンツへの関心を呼び起こさせ、その後の『ポケモン』や『ドラゴンボール』などのブームにつながったとの見る人は多い。つまり、サバンとその創設者ハイム・サバンは米国における日本アニメの歴史の中で欠くことの出来ない存在なのである。

このハイム・サバンの名前が『フランスにおける日本アニメを中心にするコンテンツの浸透状況』で、別のかたちで触れられていて驚いた。このレポートによると、ハイム・サバンは1979年にフランスで大ヒットした日本アニメ作品『UFOロボグレンダイザー』のフランス版主題歌の作曲者(!)で、フランス国内で100万枚を越える売上げを記録したというのだ。米国の『パワーレンジャー』で名をあげたサバンの源流は、70年代のフランスにおける日本アニメの音楽ビジネスにあったわけである。

あまりにも変わった経歴に興味を持ってハイム・サバンをさらに調べたのだが、そのユニークさにさらに驚かされる。サバンの出自はエジプト生まれのユダヤ人でイスラエルに移住後、さらにフランスに移住、その後米国籍を取得したイスラエルとの二重国籍所有者である。
そして、メディアで語られるサバンは、“戦隊シリーズで莫大な財産を築いた”、“米国民主党の個人最大の献金者”、“米国メディア界の一のシオニズム(ユダヤ人の祖国復帰運動)の指導者”、“ドイツのメディア王”、“キング・キャッシュ”、“メディア界のミダス王”、“大の日本ひいき”、“戦隊シリーズの交渉時に、いきなりジェットマンの主題歌を歌いだした”などなど非常に多岐に亘る。

サバンの個人史を追うと、彼のキャリアはイスラエル軍に勤務で始まる。イスラエルで旅行会社を設立したのが自分のビジネスの始まりで、1975年にフランスに移住し音楽ビジネスを手掛け、アニメ音楽の大成功で巨大レコード会社を作りあげた。その後、番組企画などにも進出し、1982年にはフランスで企画された日仏合作アニメ『ルパン8世』のフランス側の製作者でもあった。(企画は途中で頓挫した)
米国に進出したのは1983年で、1993年には東映から権利を獲得した『戦隊シリーズ』を『パワーレンジャー』として仕立て直し、地上波放送局FOXで放映させ大ヒットさせた。これにより巨万の富を築いたのは有名な話である。
1995年、サバンの会社はケーブルTVのFOX-Kidsと合併、1997年にはメディア王ルパート・マードックと伴にさらにFOXファミリーを買収した。2001年にこの会社をディズニーに転売することでさらに財産を増やした。(このためパワーレンジャーの米国の権利はディズニーの支配下にある。)
そして、2003年に米国企業としては初のヨーロッパの大手放送局の買収であるプロジーベンSAT1の買収に成功し、現在はこの会社のオーナーである。ちなみに、この時のサバンのアドバイザーを務めたのは、フジテレビvsライブドア騒動でも登場した、米国の投資会社リーマン・ブラザーズだった。

こうした波乱に満ちたサバンのビジネス遍歴だが、ビジネスを離れてもサバンがかなりな日本ひいきのオタクであることは確かなようだ。それよりも何よりも、アジア以外では日本アニメの2大国というべき米国とフランス両国の日本アニメコンテンツ普及の立役者ということになる。
ドイツの主要放送局のオーナーにサバンが納まった今となっては、彼の日本アニメでの成功は急速に過去のものになっている。しかし、かつて日本アニメと特撮を基に巨大なメディア帝国を築き上げた人間がいたことは、これからも語り継がれていくだろう。
[数土直志]