北米のマンガ事情第10回 『セーラームーン』が北米でなぜ今売れているのか。

■ 『セーラームーン』という作品の普遍的な人気

アメリカのマンガ業界の知り合いに言わせると、『セーラームーン』は「エバーグリーン(evergreen – 常に新鮮な作品)」であると言う。他の作品に比べると、時を経てもその人気の衰えが少ないような作品のことだ。
アメリカにおける日本のアニメで「エバーグリーン」と言える他の例を挙げると『ドラゴンボールZ』になるだろう。『ドラゴンボールZ』DVDを販売するファニメーション(FUNimation)の社員が北米最大のアニメニュースサイトAnime News Networkのポッドキャストで語ったところによると、2011年一番売れた日本アニメDVDは『ドラゴンボールZ』(2)。(『ドラゴンボールZ』よりも新しく、『セーラームーン』新英語版発売当初テレビで放映中だった『ドラゴンボール改』よりも『Z』が売れている。)アメリカのみならず、世界中で『ドラゴンボールZ』の人気は不滅だ。
同ポッドキャストの別の回に登場した元Bandai Entertainment USAのマーケティング・マネージャーはインタビューに答えて、Bandaiが扱ったタイトルで現在でも一番売れているのは『カウボーイビバップ』だろうと述べている(3)。こちらももうひとつの「エバーグリーン」と言えるかもしれない。

『ドラゴンボールZ』(日本でのオリジナル放送1989年~1996年)は、アメリカでは1996年から放映。爆発的な人気を博したのは1998年にカトゥーンネットワークのToonamiで放送が始まって以降となり、『カウボーイビバップ』(1998年~1999年)は2001年にアメリカで最初に放送されている。後者はそれ以降ほぼずっと放送され続けられているが、それでもどちらもそれほど新しい作品とは言い難い。

『ドラゴンボールZ』『カウボーイビバップ』、そして今回取り上げる『セーラームーン』がどうして他の作品と違い、「エバーグリーン」となり得ているのか、その明確な理由を見つけるのは難しい。

例えばデューク大学教授アン・アリソン氏は『菊とポケモン-グローバル化する日本の文化力』(新潮社)の中で、『セーラームーン』の魅力について「米国に溢れかえっている少年向け番組やありきたりな男性スーパーヒーローとのちがい」などを挙げている。

更にアリソン氏はファンへのアンケートの結果から、「セーラームーンには戦闘とロマンス、友情と冒険、現代の日常と古代の魔法や精霊とが混在し、並列して描かれている」ため、「ほかのスーパーヒーローフィクションよりも「リアル」で、感情的にも満足できる。」そして、「少女ヒーローのアイデンティティ」が「普通の少女からスーパーヒーロー」へと変化するが、その二つが融合されることなく、ひとりのキャラクターが「矛盾する性格を併せ持ち、それぞれの性格が多様に表現される」ところなどが、ファンを魅了する点だと分析を試みている(4)。

このコラムでは『セーラームーン』の人気の理由について、上記のような作品内容に踏み込んだ形での分析をするつもりは無いため、これ以上引用はしない。
ただ、『セーラームーン』は北米におけるその後の日本のアニメやマンガ人気を語る上で特に重要な作品であることは、間違いないようだ。

その重要性については、現地のマンガを専門とするライターやブロガー、そして日本のマンガに影響を受けたスタイルで作品を描くマンガ家から、個人的に何度となく聞いている。
それまで、10代後半から20代の男性が多いとされてきた日本アニメやマンガのファンに女性が増えた(現在ではファンの半分、もしくは半分以上が女性とも言われる)のも、『セーラームーン』が発端という説もある。(ただし、日本と同様に北米においても『セーラームーン』は数多くの男性ファンを獲得したようだ。)
『フルーツバスケット』など、北米で『セーラームーン』より売れた少女マンガは、現時点では複数あると思われるが、『セーラームーン』以上に強い影響力を持つ少女マンガは北米には無い、と言い切る人さえいる。

それはひとつには、最初に見た、もしくはアニメファンになるきっかけとなった作品が『セーラームーン』だったという人の多さに由来すると思われる。これには、90年代後半という時代も関係しているのだろう。1997年に、カトゥーンネットワークで日本のアニメを多く放映するToonamiブロックができ、その後テレビで放映される日本アニメの本数が増えていくが、『セーラームーン』がカトゥーンネットワークで放映された1998年はまだその本数も少なかった。(1998年は『ポケモン』のテレビゲームとカードゲームが発売、『ポケモン』アニメの放映も開始された年。上で述べたように『ドラゴンボールZ』がカトゥーンネットワークで放送されたのも1998年。)
そのため、最初に触れた作品としての『セーラームーン』に強い印象を持った人が多くいた、と考えられるのだ。

9月に出た新英語版『セーラームーン』マンガを購入した人の中には、当時アニメを見て強い印象を受けた、もしくはファンになった人たちも多くいた。それはAmazon.comのコメント欄を見ても明らかだ。昔のファンが懐かしさで購入した、つまりノスタルジーが売上を押し上げたのだ。

(注釈)
2. Anime News Network “ANNCast - It’S Kind of a FUNi Story” 2011年12月2日 FunimationのLance Heiskell とAdam Sheehanへのインタビュー   
3. Anime News Network “ANNCast  A Peek At Chu” 2011年12月16日 元Bandai Entertainment のマーケティング・マネージャーであるJerry Chu へのインタビュー
4. 『菊とポケモン-グローバル化する日本の文化力』(新潮社、2010年)アン・アリソン(実川元子 翻訳)201~204ページ

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