日中合作「チベット犬物語」国内公開 その挑戦と成果は?

『チベット犬物語 』の日本、中国それぞれで主人公・テンジンの声を務めたふたり。左:劉セイラさん、右:濱田龍臣さん

 2011年もアニメ業界は、トピックの多い年だった。なかでも注目された大きなテーマのひとつが、「中国」である。近年、しばしば言及されるように、2000年代の中国市場における日本アニメはテレビ放映規制の強化や作品許諾の締付けで後退の歴史だった。厳しい輸入規制で、中国は参入の難しい市場と日本側に強く印象づけることになった。
 しかし、2011年は、そうした厳しさの中で変化の兆しを感じさせた。日本企業の新たな中国拠点の設立や日本の劇場アニメの全国公開、インターネットでのアニメ正規配信の活発化、政府による映像交流イベントの実現などだ。新しいビジネスの芽が生まれ始めていることを感じさせた。

 アニメにおける日本と中国の協力関係で、忘れられないのがマッドハウスと中国電影集団の国際共同製作『チベット犬物語 ~金色のドージェ~』である。今年夏、中国で全国公開された本作は、中国政府が許諾する初の日中合作アニメ映画である。日本を代表するアニメスタジオ、中国最大の映画会社による協力である。
 しかし、何よりも『チベット犬物語』の意味が大きいのは、このプロジェクト、制作が、中国における日本のアニメビジネスの停滞感が漂った2000年代後半にまさに進んでいたことでないだろうか。

 製作プロジェクトは、今から2年半以上前、2009年6月のフランス・アヌシー国際映画祭の企画進行中作品を紹介する「Work in Progress」で初めて紹介された。その段階で、小島正幸監督やキャラクター原案の浦沢直樹さん、キャラクターデザイン藤田しげるさんの名前がスタッフに挙がっていた。この時点でプリプロダクションも終了していると説明された。映画製作には、相当の期間と準備がかけられている。
 制作環境の難しさ、期間の長さは、製作には通常のアニメ映画以上の大きな力が必要されたに違いない。しかし、『チベット犬物語』に代表される、閉ざされた市場を空けようとする努力が現在につながっている。こうした経験のうえで、アニメにおける今後の新しい日中関係の環境の変化を生まれるのでないだろうか。

 クレジットを見る限りでは、『チベット犬物語』のアニメ制作は企画、設定、コンテ、脚本などのプリプロダクション、原画、美術、そして撮影などのポストプロダクションのほとんどを日本側担当したことが分かる。一方で、動画、デジタルペイントのほとんどが中国側の担当になる。
 きれいに役割は分かれ、制作現場の融合とまではいかなかったようだ。しかし、何よりも原作が中国のベストセラー小説であったこと、中国での全国公開が実現したことなど、中国側の関与は少なくない。むしろ、役割分担をすることで日中でのアニメ共同製作が可能であることを示した意味が大きい。

 本作は、2012年1月7日から日本での劇場公開がスタートする。公開は、東京のシネ・リーブル池袋のモーニングショーと小ぶりだ。国際共同製作において、しばしば起きる課題、アニメのビジネスが合作する両サイドのいずれかに大きく傾いてしまうと現象がここでも発生したようだ。
 しかし、こうした公開規模とは裏腹に、本編は多くの時間と努力と思いが注ぎ込まれた結果、相当の重量級に仕上がっている。『花田少年史』、『ピアノの森』を作ってきた小島監督の少年の心を描く巧みさが、再びここでも表われている。浦沢直樹さん原案、藤田しげるさんのキャラクターデザインは、チベットという舞台に相応しく、映画のターゲットになる子供たちの心に入り易いだろう。度重なる取材により実現したチベットの広大な大地を感じられる美術は必見である。
 『チベット犬物語 ~金色のドージェ~』は、2012年日本で公開される劇場アニメのなかでも、とりわけ重要な作品のひとつだ。アニメファン、映画ファンには、是非、見逃すことなく、劇場に足を向けて欲しいと願って止まない。
[数土直志]

『チベット犬物語 ~金色のドージェ~』
シネ・リーブル池袋にて 2012年1月7日よりモーニングショー
http://www.madhouse.co.jp/tibetan-dog/