「HERO’S」田中聡エグゼクティブディレクター・インタビュー

「月刊HERO’S」田中聡エグゼクティブディレクター・インタビュー

インタビュー日: 2011年11月9日(水)
インタビュアー: 椎名ゆかり

 今のマンガ業界は、以前には無かった危機感を皆が共有していると言えるだろう。売上が右肩下がりの中、海外からは電子書籍の波が押し寄せつつあり、国内で起こる様々な劇的な変化が既存の枠組みが通用しなくなったことを示している。

 海外での販路に活路を見出そうとしても、海外での人気を後押しているのは、マンガを原作にして作られたアニメだったり(例:『NARUTO』)、原作のゲーム(例:『ポケモン』)だったりと、マンガは必ずしも「マンガ作品」単体として読まれているわけではなく、「アニメやゲームの関連商品」として消費されている、という現状も一方ではある。

 そんな中、「未だ漫画は、本気で世界に挑戦していません。」と強く訴えるマンガ雑誌『HERO’S』が誕生した。「制作の最初から世界を視野に入れて作ります。漫画で世界に通用するエンタテインメントを、本気で作ります。」と言うこの雑誌は、海外と日本の読者両方の視点に立ったマンガ作りという、前人未踏の挑戦を行うと宣言している。

 『HERO’S』を出す株式会社ヒーローズは、小学館クリエイティブと遊技機の販売等を行うフィールズが共同で設立した出版社である。2010年の設立以来、『ヒーローズ』はスポンサーがついた雑誌として注目を浴び、話題となってきた。

 そして創刊にあたり、「スタジオ方式」を積極的に採用して、世界と日本の両方の読者獲得を目指すという『HERO’S』編集部。その意気込みと意図について、『HEROS』の編集長で、エグゼクティブディレクターの肩書きをお持ちの田中聡氏にお話をうかがった。以下はその時にお話いただいたことをまとめたものである。(太字のところが田中氏のお話されたところ。)

 

■ 一部のマニアのものではなく、広い層の読者に届くものを

 田中氏の編集者としての経歴は多彩だ。太田出版『エロティクス』の創刊に携わり、『エロティクス・エフ』では編集長として中村明日美子をデビューから担当、宙出版では、BL編集者としてヤマシタトモコの担当もしている。
 また、宙出版がアメリカに設立したオーロラ・パブリシング(Aurora Publishing、2006年~2010年)の業務にも関わっている。その時の経験や人脈から、田中氏は海外の状況、特に北米の市場で読者を獲得し、日本のマンガを売るということがどれだけ大変かよくわかっている。つまり海外向けに作品を作ることのリスクも承知しているということだ。

その田中氏が編集長を務める『HERO’S』が、海外の読者に向けてマンガを作るとはどういう意味か。

「対象読者についてよく聞かれるが、答えるのは実は難しい。青年誌として売っているが、できるだけ広い読者に届けたいと考えている。まず日本市場で幅広い読者層に向けて作品を作り、結果的に日本から先の世界へと繋げることを目指したいと思っている。

例えば、『北斗の拳』などは当時大人も子供も夢中で読んでいたが、今の若いマンガ家さんに好きなように描いてもらうと、どちらかと言えば日常を描いたものが多く、マニア寄りにいきがちだ。

おかしな言い方だが、ぼくらは「ラーメンを食べながら読めるマンガ」を目指したい。それはラーメンを食べながらでも理解できて楽しめるような、受け入れやすい作品、という意味だ。
最近感じるのは、マンガが文芸化しているということ。どんどんドメスティックになっていて、読んでもすぐにわからない作品が増えている。

表面的にわかり易い上に、深く読み込むことのできる作品は素晴らしいと思うが、読んですぐに理解できないところが前面に出ている作品は、『HERO’S』の目指するところではない。『HERO’S』が作りたいと思うマンガは、そのジャンルに慣れていない読者でも理解できて、読み進めることができて素直に楽しめる作品だ。」

■ 「ヒーローもの」というジャンル

幅広い読者を目指すという『HERO’S』は、実際にどのようなストーリーを描こうとしているのだろうか。

「今、雑誌ではお金にならず、単行本で稼ぐというビジネスが増えてきている。単行本には読みたい作品だけが入っているので、読者は手に取りやすいが、雑誌の場合、どんな作品が入っているかわからないと手にとりにくい。雑誌を買う読者のためにも、雑誌の中身がわかりやすいように掲載作品のジャンルを絞った雑誌にしたかった。

そこで考えたのが、「ヒーロー」だ。ヒーローには人をワクワクさせる普遍性がある。創刊号に載せた作品のジャンルは様々だが、色々な形のヒーローが活躍するという点では一貫している。どの物語もかなり素直な、王道のヒーローものだと思っている。

フィールズが共同出資しているため、将来『HERO’S’』の作品がぱちんこ、パチスロ、アニメ、ゲームのキャラクターになることは想定されている。そのため、マンガ作品以降の展開も考えて作っている作品もある。

円谷プロがフィールズの子会社であることもあって、ウルトラマンのマンガの制作が可能になった。『鉄のラインバレル』を描いた清水栄一先生と下口智裕先生がアメリカのヒーロー・コミックスをお好きと聞き、ウルトラマンを描いてもらうのにピッタリだと感じた。島本和彦先生には、基本設定から先は比較的好きなように描いていただいた。」

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■ 海外のマンガ家と仕事をする、■ 売り場を限定する意味、■ AKB48、■ 新しいマンガ雑誌の作り方

ヒーローズ公式サイト http://www.heros-web.com/