CEDEC2011レポート アニメとゲームをつなぐ架け橋 2

CEDEC2011レポート アニメとゲームをつなぐ架け橋 2

文:氷川竜介(アニメ評論家)

■ マルチカメラパラメータを用いた映像誇張方法の提案

 インタラクティブコーナー(解説者がパネルで随時紹介)で行われていた展示。「金田パース」と呼ばれる手描き独特の誇張された遠近感を3Dモデルで再現するための技法である。株式会社日立製作所/東京大学の宇都木契氏によるものだ。
 映画などではカメラが移動していても視点が一意に決まるため、その瞬間だけモデルを差し替えレンズを交換することで、デフォルメ表現が可能である。しかし、任意の視点からリアルタイムで撮影するような場合、自由な誇張は難しくなる。この問題を解決するため、関節単位でカメラパラメーターを決め、映像を合成する手法だ。実際にモデルがキックやパンチを繰り出す映像をデモしていたが、より大きくカメラの手前に迫ってくる動きで勢いや緊張感が増幅される感触は、金田アクションに通じるものと実感できる。解説には金田伊功氏の手による『無敵超人ザンボット3』(’77)の原画(サンライズと氷川竜介が提供)も参考に使われていた。

 映像は「観客にどう見えるか」が大事であり、時には「ウソ」をつかないと「らしく」見えない。手描きではちょっとしたパーツの誇張やバランスとりで、アニメ空間内だけのリアリティが発生する。CGモデルでもそうした世界に近づける工夫が年々増えている。
 本来の「金田パース」には止めセルゆえに成立するものや、動きのタイミングとの組み合わせで威力を発揮するものもあるため、万全の再現とはまだ言えない。だが、いずれ全方位的な「金田アクション」がリアルタイムでCGモデルでも可能になるだろう。そのときには、驚くような応用もあるに違いない。金田伊功氏がめざしてきたものの遺伝子が、こうして生き延びて次世代へ継承されていくのは、非常に喜ばしいことである。

■ アニメのエフェクト、ゲームのエフェクト(9月6日)

 エフェクトアニメーターとして数多くの作品に参加する橋本敬史氏(『モノノ怪』『C』ではキャラクターデザインも担当)。大友克洋監督の『スチームボーイ』で真の主役とも言える「蒸気」を9年間ひたすら描き続け、デジタルならではの「密度差作画」(湿度の疎密を作画でパーツ分けして撮影処理する)を3年かけて開発したという。その濃密なテクニックとノウハウが、セガの岩出敬氏(『パンツァードラグーン』『龍が如く』のエフェクトデザイナー)を聞き手に紹介された。大ホールで2コマ分(2時間以上)を使い、ゲーム開発でもエフェクト表現が重視されていることが分かる。
 「エフェクト」の定義は分野によって若干の幅があるが、映画では俳優・照明・撮影(フィルター)・メイク・大道具・小道具など「撮りきり」で表現可能なもの以外の火薬やスモークや光学処理、あるいは模型で表現されるものの総称である。爆発の仕掛けや銃の発火・着弾なども広義の「エフェクト(効果)」と呼ばれる(ガンエフェクトなど)。
 アニメーションの場合、きわめて初期(1930年代)からエフェクトにはキャラクターアニメーションとは別のスキルが必要と認知され、別の専門部署が設立されていた。日本では1970年代後半からメカ、ロボットの戦闘を見せ場とする作品が増大し、実写で言う特撮、SFXに相当するスペシャルエフェクトを得意とする人材が注目された。金田伊功氏もその中で爆発や光線、メカアクションとエフェクトで一世を風靡した逸材なのだ。

 現在、アニメ業界ではメカなどソリッドなものはCGで描きつつ、着弾やスパークなどは手描きのエフェクトをブレンドする表現がスタンダードとなっている。硬軟のハイブリッドが表現の豊かさに直結するわけだが、それを確立させたのも橋本氏である。
 今回は、橋本氏自身がホワイトボードで原画をどういう絵にすると効果があがるか、実演を交えての講義である点がすばらしかった。アニメーターに取材をすることの多い筆者でさえ、目の前で具体例を描いてもらう経験はほとんどない。線の描く順番や筆圧の強弱など、情報の多い実演は非常に参考になった。
 両業界のエフェクト対比という点では、ゲームではツールを使ったエフェクトを何テイクも重ねて修正して練りこんでいくのに対し、アニメではイメージをもった作画の一発勝負に賭けるという大きな違いが印象的だった。エフェクトのように「正解」がない表現の場合、何度も修正していくと整ってはいくものの、人の心を突き刺すような突き抜けた表現にはなり得ないからだろう。

 アニメは2次元の平面表現なので、輪郭(フォルム)を考えてシルエット全体でエフェクトの推移を印象づけて見せないといけない。橋本氏は「物理演算に特化している」と自認し、炎が燃えあがるときにもそのままだと動きが均等すぎるため、あえて原画の順番を入れかえたり、左右裏がえした絵を入れたりすることで、イレギュラーが生じるように工夫している。これはCGでも2パターンつくってコマを相互に入れ替えることなどで実現可能だと、その場でも新しいアイデアを思いつき、披露していた。
 『スチームボーイ』では大友監督から、あるカットで「キャラの背後にある蒸気が悩みを代弁している」と言われ、「悩む蒸気」を描くために試行錯誤したという。教科書的には煙や蒸気は球体の積みかさねで描くもので、CGもそれに近い原理だが、橋本氏は逆に空気の抜けたところが削れたように描く手法を編み出した。原画はギザギザに見えるが、これに透明度やボカシを加えることであの絶妙なリアリティが現出するのだ。
 CGは絵の情報が多くリアルに近いため、アニメとはタイミングも違う(アニメの方が速め)。また、CGの方がコピペした箇所がすぐ目につくなど、ウソがバレやすいなどという指摘は、思いあたるフシがあって興味深かった。人の視覚は情報量の多寡だけでリアリティを判断しない。橋本氏の提言はそれをあらためて再認識させてくれるものだった。

■ アニメ効果音の現場とこれからの音響効果に続く