中国アニメ産業の現状 アニメフェア、動漫基地を訪れて(4)

中国アニメ産業の現状
〜杭州アニメフェア、大連・北京石景山の動漫基地を訪れて〜

日中間の可能性を探って

増田弘道
1979年 キティレコード入社後、レコード販売促進、ビデオ企画、キャラクターライセンス、アニメ製作担当などを歴任。 1988年 郵政省管轄財団法人放送音楽文化振興会出向、ハイビジョン番組などを制作。 1992年 キティフィルム退社、同年 ドドプレス(現「ソトコト」)入社。 1997年カイ・コーポレーション(プランニング会社)及びブロンズ新社(出版社)とプロデュース契約。各種プランニング、単行本編集を多数手がける。 1999年(株)パオハウス代表取締役就任、2000年(株)マッドハウス代表取締役就任、2005年退社。 2007年には、アニメビジネス産業の現状と市場を解説した「アニメビジネスがわかる」(NTT出版)を執筆。現在フロントメディア取締役、シンプル・デッセ取締役プロデューサー、武蔵大学社会学部講師などを務める。
アニメビジネスがわかる: http://anime.typepad.jp/

 

中国アニメ製作事情

中国製アニメの制作費

今回の中国訪問のまとめの意味も込めて中国アニメ製作の実情について思うところ述べてみたい。
まず、製作事情を手っ取り早く知るために中国のアニメが一体幾らくらいでつくられているのか考えてみたい。実はこれに関し今回の訪問で中国のアニメ制作費は30分番組で最高200万円程度の補助金が出ているのではないかという推測がなされた。そして、遠藤誉氏の『中国動漫新人類』や中国のアニメ関係者と交流のある知人から聞いた話から推測すると中国ではどうやらその予算レベルでアニメを制作できるらしい(但し、この予算で収まらないという話も聞いた。標準化されていないと思われるのでバラツキが大きいかも知れない)。
しかしながら、幾ら物価が安いとはいえインフレ基調にある中国で果たして制作できるのか(日本の5〜7分の1の予算)。多分その答えは以下の理由に収斂されるかも知れない。

 ①子ども向けアニメが主流(日本でも子ども向けの方が制作費が安い)
 ②熟練者が少ない(賃金が低い)
 ③3Dアニメが多い(2Dアニメに比べ生産性が高い)
 ④販管費が安い(と思われる)

以上の要素を考えると何とか制作可能な予算設定であると思われるが、これは今後の日本のアニメ産業にも関係してくることなので調査を続けていきたいと考えている。

製作費回収のビジネスモデルと問題点

さて、次に肝心の回収におけるビジネスモデルであるが中国では一体どうなっているのであろうか。中国の新聞に「アニメ作品の85%は資金を回収出来ていない」と書かれたそうだが、実際関係者から回収方法を聞く限り余程大当たりしない限り回収は難しそうである。
中国における主な収益源を上げてみると、
国内放送局の放映権料(映画の場合は興行収入)
MD、特に出版(本)
が中心のようである。

日本では重きを占めるDVD販売は承知の通り海賊版のためマネタイズは不可能、海外販売は作品力がないため望めず、配信、音楽商品・出版といった収益手段も中国では難しい。
ということで、一番確実な収益源は放送権収入ということになるのであるが、実はこれがかなり厳しい状況にある。放映権料が一番高いCCTVでも1分間6,000元(9,000 円)、これが地方のテレビ局となると1分間8元から10元のところもあるという。
幾ら制作費が安いといっても主力収益源がこれでは回収は厳しい。もちろん②のMDという手段もあるが比較的流通がしっかりしている出版はともかくとして余程の大ヒットでなければ収益につながらないようである。

一方映画では、「制作費600万元で作られた国産アニメ映画『喜羊羊与灰太狼(メエメエちゃんとオオカミ君)』は先月(09年1月)16日に封切りされ、現時点で全国興行収入は約8,000万元」(中国国際放送HPより)になった例もある(『喜羊羊』以前の劇場アニメは3,000万元が最高)が、このような大ヒットは希であり、この作品がTVアニメであったことを考えると映画における回収もなかなか厳しいように思われる。

中国アニメビジネスの問題点

ストーリーを中心としたプリプロの問題

中国アニメビジネスの問題点は一言で言うとヒット作が少ないということであろう。日本のアニメの歴史を見てもわかるように、『鉄腕アトム』『宇宙戦艦ヤマト』『エヴァンゲリオン』『ポケモン』『千と千尋の神隠し』といったメガヒット作品がアニメブームの起爆剤として常に存在した。その意味でアニメ産業の発展は、まずヒットありきと言えると思う。
ところが残念ながら中国には時代を画すようなヒット作品がまだ現れていない。要するにメチャクチャに面白い作品がまだないということであろうが、その原因はおそらくはストーリーを中心とするプリプロ部分(ストーリー、キャラクター、絵コンテ)、もうひとつは多様性の限定にあるのではないかと思われる。

まずストーリーを中心とするプリプロ部分に潜む問題であるが、中国は原作の宝庫であるマンガ文化を持っていないこともあり面白いストーリーが不足している。ストーリーのみならずキャラクターやコマ割まで揃ったマンガという強力な原作装置を持たない限り面白いアニメをつくり出すのは難しい。
多様性の限定については、要するに中国には大人向けのアニメがないということである。中国も世界の国々がそうであるようにアニメとは基本的に子ども向けのCartoon=漫画映画なのである。子ども向けのアニメをつくり続ける限りは自ら市場的限界が生じるのは当然である。アメリカの様なファミリーターゲットでもいいだろうが、それはそれでマーケティングが難しい。

だが、例え大人向けのアニメが実現したとしても表現規制の問題がある。例えば日本の近未来ファンタジーアニメなどにはしばしば日本が占領される、あるいは国家そのものが消滅しているなどという設定があるが、この想像力が中国で許されるとはとても思えない。
近未来において中国共産党が世界を統一するストーリーなら可能かもしれないが、それを見て喜ぶ人間がいるとは思えない。ある種ハチャメチャな想像力が保証されない限り多様性に富んだ面白いアニメを生み出すのは難しいであろう。以上の問題を解決しない限り中国アニメのエンタティンメント性は向上しないであろう。

ソフトパワーとしてのアニメ

覇権大国化しつつある中国

実はアニメ経済面ではなく政治面でも日本に取って大きな利益をもたらす可能性があるのではないかと考えている。具体的に言えばアニメの持つソフトパワーが安全保障問題とは言わないが、日中の平和に大いに寄与できる可能性があるからだ。
最近の中国は経済発展と共に阿片戦争以来失われていた清朝時代の威光を取り戻すかのような振る舞いが見られるが、それが如実に表れているのが軍備拡張であろう。既に08年には米国に次ぐ軍事費予算となり周辺国に対する重大な驚異となっている。
中国が「平和を愛する諸国民」でありその「公正」と「信義」が「信頼」できるものであれば何の憂いもないが、少なくともその行動を見ている限りは疑問である。特に最近驚異となりつつあるのが台湾問題で、台湾を自国領と考える中国はチベット同様いつ軍事的なアクションを起こしてもおかしくない状況にある。もし台湾侵攻が実現しその付近のシーレーンを支配するとなると日本の生命線であるエネルギー輸送が途絶える可能性が一挙に高まるが、そうなれば日本の実質的な属国化がはじまる。また、親中国のオバマが大統領になったことで中国の台湾侵攻時にアメリカ第七艦隊が出動するかについて疑問符が付くようになり台湾侵攻の可能性はかなり現実的になったと思われる。

動漫新人類に対する期待

こうした状況の中、日本が執るべき手段は幾つかあるが、そのひとつとしてマンガ・アニメのソフトパワーを利用してはどうだろう。これは決して故無きことではなく実際マンガ、アニメ、ゲームといった日本のポップカルチャーが日本の理解に非常に役に立っているのである。

筑波大学名誉教授である遠藤誉氏が著した『動漫新人類』よると、90年代半ばから中国の若者の変化を肌で感じたそうである。彼ら80年代以降に生まれた若者は「新人類」であり、上の世代と違い中国という国や政治体制への思い入れが非常に淡泊で、時に『中国』という国を突き放して考えるような傾向を持っている。
遠藤氏はその原因をあれこれ考えた、そのひとつにその世代の若者の多くが日本の動漫を見て育ったことにあると思い至りそこから動漫に対する調査がはじまる。

その過程で訪れた中国トップの精華大学では日本の動漫を愛する学生による「次世代文化と娯楽協会」というサークルがあり、その人数は何と600人にものぼるとのこと。このサークル、最初はプレステやドリキャスといった次世代ゲーム機(だから次世代文化)愛好会としてスタートしたが、現在では「漫画本の貸し出し、アニメ鑑賞会、ゲーム大会、創作を通した同人誌の発行」などを活動主旨としている。なにやら中国版「げんしけん」である。
驚くべきは、そのサークルメンバーが揃って「ッつうか・・・」という日本の若者言葉もつかえるほど日本語が流暢とのこと。オタクの域に入っていると思われるが、日本に取っては非常に有り難い話である。こういう世代が中国社会の主流となれば日本と事を構えるような野望は薄まるのではないか。従って、日本の動漫を普及させる(勝手に普及してはいるが)手段をあらゆる方面から検討すべきではないかと考えるのである。

以上、中国についてアニメ産業の視点から述べてきたが、経済面においても政治面においても日本のアニメが有益であるのは間違いないので今後も日本と中国のアニメ産業の関係性を追求して行こうと考えている。