中国アニメ産業の現状 アニメフェア、動漫基地を訪れて(3)

中国アニメ産業の現状
〜杭州アニメフェア、大連・北京石景山の動漫基地を訪れて〜

日中間の可能性を探って

増田弘道
1979年 キティレコード入社後、レコード販売促進、ビデオ企画、キャラクターライセンス、アニメ製作担当などを歴任。 1988年 郵政省管轄財団法人放送音楽文化振興会出向、ハイビジョン番組などを制作。 1992年 キティフィルム退社、同年 ドドプレス(現「ソトコト」)入社。 1997年カイ・コーポレーション(プランニング会社)及びブロンズ新社(出版社)とプロデュース契約。各種プランニング、単行本編集を多数手がける。 1999年(株)パオハウス代表取締役就任、2000年(株)マッドハウス代表取締役就任、2005年退社。 2007年には、アニメビジネス産業の現状と市場を解説した「アニメビジネスがわかる」(NTT出版)を執筆。現在フロントメディア取締役、シンプル・デッセ取締役プロデューサー、武蔵大学社会学部講師などを務める。
アニメビジネスがわかる: http://anime.typepad.jp/

 

大連・北京の動漫基地を訪ねて
大連動漫回廊

杭州のアニメフェアから戻って一週間後に再度中国を訪れる機会を得た。今回は大連で行われる「日中 桜・アニメ フェスティバル」という文化交流会に手塚プロの松谷理事長(6月よりスタジオぴえろ代表の布川氏が理事長となった)以下総勢8名が招かれたのであるが、同時に経済産業省の助力によって大連市と北京市にある動漫基地の視察や中国政府関係者との懇談も重要な目的のひとつであった。
大連の動漫基地を訪れたのは出発当日5月8日の午後、大連市長への表敬訪問のあとであった。この動漫基地は大連市の中心から南西部に車で30分ほど行った広大な大連ハイテクパークの一角にある。
このハイテクパークにはマイクロソフト、インテル、IBM、ノキア、トヨタ、ソニー、パナソニックといった世界的企業を含む3,000もの企業が集積した一大産業地帯である。

大連で今回訪れたのは3社、何れも3DアニメのTVシリーズ、ゲーム映像、CFなどの制作会社ということもあり、2Dアニメ主流の動画協会としては評価しがたい面もあったが、おそらくここ数年のアニメブームによって誕生した企業にはこのような3D志向の会社が多いのではないかと思う。
その理由として考えられるのは2Dアニメ制作の難しさである。2Dアニメ制作一朝一夕には習得できない。彼らはそれをハナから諦めて、デジタル技術で補完可能な3Dアニメに向かったのではないか。3Dアニメは中国(あるいは韓国)の方が上という声も聞かれるがそれにはこういった事情があると思われる。

翌日、東北済経大学で「桜・アニメフェスティバル」が開催され、動画協会から松谷理事長、泊顧問をはじめとするメンバーが参加しアニメを通じての日中友好親善を深めた。
中でも好評だったのは親善講演会で行われた泊顧問のセミナーで、市内の学校からも聴講者が駆け付けここでも日本のアニメに対する関心の高さが伺えた。

北京石景山動漫基地

大連に続き向かったのは北京。目的は日中間におけるアニメビジネスの可能性を探るためである。
移動日の翌日にまず訪れたのは北京の中心地から地下鉄で30分ほどの石景山区にある科学技園区(ハイテクパーク)である(少し前に有名になった何でもありのキャラクターランドの近く)。その一画の「北京デジタル娯楽産業モデル地区」の中に動漫基地はあるのだが、印象的だったのが案内をしてくれた張氏が代表を務めるdigilandという会社の有り様(よう)であった。

アニメ、実写のCG制作だけではなく、編集やミックスダウンなどのポスポロもこなすこの会社、驚いたことに所在地が北方工業大学のしゃれた校舎内にあり、学生と思しき人間が作業しているのである。さらに、人材育成センターも大学内にあり、恥ずかしい限りであるが中国ではこのような産学一体型の取組が当たり前であるとそこで初めて知った。
学生たちも商業作品の制作に参加しており、アカデミックライセンス(あるいは無許諾ソフト?)の上に人件費がタダ(推測ではあるが)とあっては、生産性は低いと思われるものの恐るべき価格競争力と言えるであろう。

そして、石景山で最後に訪れたのが日系アニメ企業との合弁会社を誘致したいという領秀大廈(ビル)であった。先方の説明によるとこの6階立てワンフロアー1,400平米のビルを1平米1月1.5元(約225円)で借りられるとのこと。また、各々政府、北京市、石景山区での税制優遇、また資本金に応じた投資、さらには作品に対する出資、ファンド活用などの制度が利用可能で魅力的な話であるのは間違いない。
合弁として割り切ってやる覚悟があればそれなりのメリットを享受できるだろうが、外貨持ち出しが困難、さらによく制度が変わるなどのリスクは依然として残る。

政府関係面談

石景山の視察後、私は所用のため帰国してしまったが残ったメンバーは経産省と共に中華文化促進会、国際版権交易中心、広電総局ラテ局、文化部といったキーとなる政府関係部署とのミーティングに臨んだ。
そして、それら一連の話し合いの中で感じられたのは、重工業やIT産業、新技術産業から環境エネルギー産業、文化産業へのシフトが大局的なレベルではじまりつつあるということ。そういった状況の中、今まで広電総局主導で進んできたアニメ産業育成に対し文化部も手を上げ、担当者曰く日本円にして総額2,000億円にのぼる投資を考えているとのことであった。

真偽のほどはわからないが、もし直接作品に投資してもつかい切れる金額ではない。中国には「党管幹部」(共産党が幹部を管理する)といった制度があり国有企業のトップには各省庁のトップクラスが任命される。おそらくこの資金もそれらの企業に流れハコモノなどにつかわれるのであろう。
ちなみに、政府としての著作権制度に対する取組も佳境を迎えているようで制度的な不備はほとんど解消されたとのこと。その結果、侵害案件についても訴訟でそれなりの成果を得られるようになり、侵犯者に対しても相応の処罰が科せられるようになったとのことである。

協業の可能性

今回、アニメ業界としては初の公式訪問であったこともあり、体面を重んじる国としては情報交換以上の対応をしてくれたように思える。
そのひとつとしてあったのが、文化部からの制作協定の打診である。実現性はともかくとしてこのレベルの話が出たこと自体今回の訪中の大きな成果であったと思うが、実は昨年12月に中国文化部と韓国文化体育観光部で「ゲーム産業及び文化合作についての協定」が結ばれた前例があってのことであろう。
中国としては初の海外との協調体制として注目されたが、本年6月11日正式に「中国・韓国ゲーム産業合作協定」を締結、同時に中韓ゲーム産業連盟を発足し、江蘇省の「国家デジタル娯楽産業模範基地」である常州創意基地で中韓両国のネットゲームの合作事業を行うこととなった。
今後の経済動向を考えると中国を無視できないのは明らかであるが、ハリウッドのメジャーならいざ知らず、アニメ企業が単独で進出するのは難しいと思っていた日本のアニメ事業者にとって、この制作協定は果たして朗報となるのであろうか。

この他に、一番手っ取り早い協業形態としては「枠の交換」が効果的であると思われる。
例えばアニメ専門チャンネルのニコロデオン(Nickelodeon)は、この7月からアジア13カ国・地域で中国製TVアニメの放映枠「China Toon」をスタートさせた。元々ニコロデオンは自局の人気番組『スポンジ・ボブ』をCCTVで放映させ高い人気を得ているが、おそらくそこには中国製のアニメをニコロデオンで放映するといった駆け引きがあったのではないだろうか。
中国としては喉から手が出るほど欲している海外進出である。従って、中国進出を狙うならこの作戦が一番手っ取り早く現実的な作戦であるように思える。