カート・ハスラー氏に聞く 電子書籍はマンガビジネスを変えるのか?

YenPress カート・ハスラー氏に聴く 米国マンガの現況 2 
[電子書籍はマンガビジネスを変えるのか?]

YenPress カート・ハスラー氏 インタビュー 


■ [電子書籍はマンガビジネスを変えるのか?]

アニメ!アニメ!(以下AA)
米国、そして日本の出版社は電子書籍が違法配信や書店の減少といった状況の問題を解決するかもしれないと考えています。実際に正規配信は違法サイトへの対抗策になりますか?

カート・ハスラー氏(以下K・H)
私はボーダーズを離れて、Yen Pressを立ち上げてから4年間、ずっとマンガの電子書籍市場を生み出すために出版社とデジタルライツについて話合ってきました。しかし、多くの出版社は気が進まないようでした。多くは電子書籍のビジネスを始めると、海賊版を増やしてしまうという懸念を持っています。
でも間違いなく、アメリカ、そして世界中で最も海賊版が出回っている出版コンテンツは、日本のマンガです。電子書籍の正規ビジネスが、この状況を更に悪化させるという考え方は非現実的でしょう。

AA
正規配信は事態を好転させますか?

K・H
正規の電子書籍は海賊版を作り、読むというファンの欲望を取り除く最も有効な手段です。もちろん、それが全ての問題を解決するわけではありません。出版社は海賊版を常に監視し、クリエーターを守らなければいけません。それが出版社の責任です。
作品を売ってクリエーターは稼ぎ、作品を売って出版社も稼いでいます。それは生活の糧なのです。それが脅かされるとすれば、それは業界全体の危機なのです。

AA
電子書籍という点では、他社の例えばJMangaやVIZmanga.comの戦略はどう思われますか?

K・H
デジタルやアプリでマンガ売る考えは、どの出版社もやるべきです。Yen Pressも独自のアプリを持っています。
ただ、これからデジタルマンガビジネスを考える時に、一番悩ましいのはデジタル出版権と紙の出版権が分離していることです。
デジタルと紙はもともと同じ作品なのに、電子書籍と紙の出版が異なる2社からでると競い合うことになります。これは健全なビジネスではないですよね。

AA
そうした問題の前提としても、電子出版ビジネスは伸びる必要があるわけです。実際に市場は伸びていますか?

K・H
伸びています。それも急激に成長しています。ただ、そこからの収益はまだとても小さいですね。コミックスやマンガの電子出版には大きな注目が集まっていますが、収益だけを考えるとほとんどゼロです。
最も危険なのは、電子出版を追いかけるあまり紙の本のビジネスをないがしろにすることでしょう。今でも全ての出版社が利益をあげているのは紙の本からなのです。

AA
電子出版は様々なコストを下げることが可能だとされています。

K・H
確かに印刷や配送などにかかるコストはなくなりますが、技術に対する投資は必要です。特にアプリを作るにはかなりの投資が必要です。さらにデジタルアーカイブやその送信にはお金がかかるし、さらに翻訳やリタッチやリレタリングにも費用がかかります。
つまりデジタルだから費用が少なくて済むということはなく、それなりにお金はかかるのです。でも多くの人はそのことを考えず、「デジタルにすれば何でも安くできる」と思いがちです。
電子書籍には多くの読者がいると言われているし、実際にそれは正しいでしょう。しかし、デジタルで出版することで紙の本の読者は減り、全てがデジタルに移行してしまうリスクもあります。デジタルで得られる利益は紙の本の出版で得られる利益ほど大きくないので、業界全体の構造を弱体化させてしまう可能性があることは忘れてはいけません。

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