特殊映像ラボラトリー 第25回 「『イヴの時間』に、何が起こったか?」 後編
■ 「ささやかながら、この盛り上がり感が、この映画に一番合っている」
−関連商品の展開についてはいかがですか?
長江P
関連商品は、アスミック・エースさんの仕掛けです。コミックとノベライズは、アスミックさんのお家芸とでもいうのか、あっという間に決めて来て下さいました。
さすがだなと思いました(笑)。コーヒー(イヴレンド)に関する連動も、アスミックさんのほうから提案があり、粘り強い交渉の結果、公開直前に話が決まりました。結果的に、関連商品の展開の中で一番盛り上がったのはイヴレンドでしょうね。喫茶店が舞台のお話を、劇場で売っているコーヒーを飲みながら観る。決して派手な仕掛けではないですけど、そういうほうがあってる作品じゃないかなと。どこかのシネコンで何千人呼んで、じゃなくて、時折コーヒーを絡めて劇場やネットカフェで小さなイベントをやったり。ささやかながら、この盛り上がり感がこの作品に一番合ってる感じがします。
まずは個人のパーソナルな感覚に訴えて、ちょっとずつ拡げて行く。最初から大きく展開することを考えてたら、きっと空振りしたり、空回りしちゃっただろうし。最初に動画サイトの配信でスタートして、劇場上映の段階でもツィッターを中心に拡げて行くという、一貫してパーソナルなコミュニケーションで盛り上げてきたわけです。内容的にもそういうノリが相応しい作品なのでしょうね。
■ 年末には配信版のブルーレイもリリース。「イヴ」の成長は止まらない。
−9月末現在で、DVD5000枚、プルーレイ1万1000枚の、計1万6000枚がセルでのセールス実績とのことですが、パッケージ・メディア市場でのこの成果をどう評価なさいますか?
長江P
もう少し大きな拡がりを夢見た時期もありましたが、パッケージが売れないと言われるこの時代に、この数字は決して悪くないと思います。作家性が際立ったアニメ作品の場合、メジャーな監督でもDVDで2万枚超えるものはあまりないと聞いていましたから。いわゆる商業アニメの王道からちょっとズレると、売上的にはそのくらいなのかなという意識はありました。
そういえば、配信版のDVDに対する要望がいまだに根強くあって、それに応える形で、今年の年末にディレクションズから配信版6話を収めたブルーレイをリリースすることになりました。最初に出した限定版DVD同様、当社のダイレクト販売とアマゾンのみで展開していくことになると思いますが、まあ、今更そう売れるものじゃないでしょうから、初期ロットは押さえるつもりです。あくまでもこれはここまでこの作品を支えてきてくれた人たちへの感謝の気持ち。一番最初に「イヴの時間」に気づいてくれた皆さんに、という位置づけかな。DVD盤と比べ、映像のリファインも音のミックスも監督自らやり直しています。最初から見守ってくれてありがとうございますという、感謝を込めて。
いずれにせよ、この先11月からはレンタルも始まったりして、また新たに気づいてくれる人が現れるでしょうし、まだまだこの作品の成長は続いて行くと思います。
以上が「イヴの時間」についての、配信、劇場版公開、パッケージ・メディア及び関連商品展開における、現時点での中間的総括であり、プロデューサーと監督による考察である。
「イヴの時間・劇場版」の興行収入は2000万円だが、表面に表れた数字以外でも多くの実績を残し、またウェブ配信、シングルDVD、ツイッターを積極活用したパブリシティなど、ルーティンに陥りがちな映画ビジネスに対して、新しい方法論を提示してみせ、成果を上げた。これは歴然たる事実である。
そして「イヴの時間」の最大の成果は、TV番組「デジタルスタジアム」を通して、当時福岡の大学生であった吉浦康裕という才能を発掘し、育て、劇場用映画監督デヴューというステージを用意したことである。「このプロジェクトの目的は、第一に吉浦くんを育てること」と言いきった長江プロデューサーの思いに、吉浦監督は全力で答え、映画監督として最高のデヴューを飾った。
その吉浦監督に「次回作は?」との質問をすると、「今準備中。イヴとはまた違う、今までの作品ではまだやってないことをやろうとしています」との答えが返ってきた。この新しい才能に、これからも注目して行きたい。

