特殊映像ラボラトリー 第22回 「2010年上半期・特殊映像総決算!!」
斉藤守彦の「特殊映像ラボラトリー」
特殊映像ラボラトリー 第22回 「2010年上半期・特殊映像総決算!!」
斉藤 守彦
[筆者の紹介]
1961年生れ。静岡県浜松市出身。
映画業界紙記者、編集長の経験の後、映画ジャーナリスト、アナリストとして独立。「INVITATION」誌で「映画経済スタジアム」を連載するほか、多数のメディアで執筆。データを基にした映画業界分析に定評がある。「宇宙船」「スターログ日本版」等の雑誌に寄稿するなど、特撮映画は特に得意な分野としている。
■ 日本映画/アニメ
アンダー200作品が、軒並み高稼働!
2010年上半期における、日本製アニメ映画のうち、興行収入10億円を超えたのは、次の6番組。
☆「STRONG WORLD/ONE PIECE FILM」(東映/正月)48億円
☆「名探偵コナン/天空の難破船」(東宝/4月)31.9億円
☆「ドラえもん・のび太の人魚大海戦」(東宝/3月)31.6億円
☆「クレヨンしんちゃん/超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁」(東宝/4月)12.5億円
☆「ブリキュアオールスターズDX2/希望の光☆レインボージュエルを守れ!」
(東映/3月)11.4億円
☆「劇場版銀魂/新訳紅桜篇」(ワーナー/4月)10.66億円
シリーズ別に増減を見ていくと、前作の9.2億円から大きくジャンプアップした「ONE PIECE」の大ヒットは、特筆すべき成績である。この件については、当「特殊映像ラボラトリー」では、「『STRONG WORLD/ONE PIECE FILM』大ヒットの秘密」と題して、宣伝実務を統括した東映の谷口毅志宣伝ブロデューサーのインタヴューを、2回に渡って掲載している。そちらを参照されたし。
(http://www.animeanime.biz/all/2010052501/)
マーケティング面に触れると、「STRONG WORLD/ONE PIECE FILM」は、例年の東映系春休み公開というパターンに該当せず、2009年12月12日からティ・ジョイ、ワーナー・マイカル、TOHOシネマズなどのシネコンを中心に、全国188スクリーンで公開された。オープニング成績は、入場者数81万8738名、興収10億3843万9600円。つまり1スクリーンあたり2日間で552万3615円を稼ぐという、前年の「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」をしのぐ高稼働を果たしたのだ。東映では翌週より194スクリーンと上映館数を増やしたが、押し寄せる観客たちをさばくべくもなく、あれよあれよという間に興行収入48億円を上げてしまった。限られたマーケットでの上映が、観客の「見たくても、満席で見られない」という飢餓感を煽り、入場者プレゼントというアイテムが、それに拍車をかけた。いわゆるハングリー・マーケティングの、最大の成功例と言えるだろう。
「名探偵コナン」シリーズは、前作「漆黒の追跡者」の興収35億円には及ばないものの、30億円台をキープしたのは立派。去年「ヤッターマン」の登場で苦戦した「ドラえもん」シリーズだが、強敵不在のマーケット環境で、例年の力を発揮するかと思いきや、新作「のび太の人魚大海戦」の興収は31.6億円に終わった。これは2008年の「のび太と緑の巨人伝」の33.7億円を下回り、2005年の大規模リニューアル以来、2009年の「新・のび太の宇宙開拓史」(興収24.5億円)の次に低い成績である。さらなるリニューアルの必要な時期に来ているのかもしれない。なお昨年の10億円から12.5億円へと復調した「クレヨンしんちゃん」の新作「超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁」だが、今後は再スタートが決まったコミック同様「新・クレヨンしんちゃん」シリーズとなるのだろうか。
昨年の「みんなともだちっ☆奇跡の全員集合!」が、シリーズで初めて興収10億円を超えた(10.1億円)「プリキュア・オールスターDX」シリーズだが、今年春の「ブリキュアオールスターズDX2/希望の光☆レインボージュエルを守れ!」は、それよりもさらに1億円以上高い11.4億円をものにした。今や「プリキュア」シリーズは、「仮面ライダー」「戦隊」「ONE PIECE」と並び、東映の屋台骨を支えるヒット・シリーズへと成長した。
「スカイ・クロラ」「サマーウォーズ」と、日本製アニメ映画を毎年配給してきたワーナーは、ゴールデン・ウィークに「劇場版銀魂/新訳紅桜篇」を公開し、原作の圧倒的ネームバリューを活かした結果、興収10.66億円をマークした。オープニングの段階では、全国90スクリーンでの公開であったが、予想を上回る景況に、のべブッキング数は142となった。
興収10億円以下の作品では、何と言っても角川書店=クロックワークス配給による「涼宮ハルヒの消失」が、圧倒的な存在感を見せた。現時点における興収は8.3億円。のべブッキング数は102。しかも現在でも上映中の映画館があるという。オープニングのスクリーン数が30であることを考えれば、極めて効率の良い稼働をしていることになり、また上映時間2時間43分と、映画館にとって決して回転の良い作品ではないにもかかわらず、これだけの成果を上げていることは注目に値する。
クロックワークスが昨年11月より公開していた「劇場版マクロスF 〜イツワリノウタヒメ〜」は、のべ111ブックで興収6.45億円をあげた。この作品の場合も、オープニング・スクリーン数は30と小規模だったが、ブッキング数が延びたのは、短期間でも上映する映画館の数が多かったことを意味する。
そうした中小規模のマーケティングで効率的に稼ぐ作品たちに対して、「レイトン教授と永遠の歌姫」「宇宙戦艦ヤマト・復活篇」の興収は、それぞれ約5.89億円、約4.3億円と、今ひとつ精彩を欠く。オープニング・スクリーン数を見ると、「レイトン」が311、「ヤマト」213と、それなりの規模のマーケット体制となっていることを考えると、この結果は決して満足出来るものではないだろう。
「空の境界」で力をつけたアニプレックスが1月に公開した「魔法少女リリカルなのは THE MOVIE 1st」の場合もまた、現在までに68ブックで興収3.8億円と高稼働を見せており、今後も上映予定があるとのこと。「劇場版Fate/stay night Unlimited Blade Works」(クロックワークス=ジェネオン・ユニバーサル配給)は、のべ66ブックで2.8億円を計上。しかし角川映画のレギュラー番組「超劇場版ケロロ軍曹/誕生!究極ケロロ奇跡の時空鳥であります!」他は、174ブックで2.23億円と、昨年の4.6億円に対して半分以下にまでダウンした。これは2月27日という初日設定が起因しているように思う。同じターゲットの「ドラえもん」を回避する目的こそあれ、まだ学校が春休みに入っていないシーズンでの公開は、スタートダッシュを欠いてしまう。同時上映作品の強化など、今後の課題も少なくない。
昨年11月から公開されていたアスミック・エース配給の「東のエデン」2部作だが、7スクリーンからスタートした「東のエデン劇場版I The King of Eden」は、最終的に54ブックで興収1.5億円、当初の予定より遅れ3月13日より15スクリーンでスタートした「東のエデン劇場版II Paradise Lost」は、のべ41ブックで1.2億円をあげた。「I」のほうが「II」より上がっているのは、当初1月9日より公開予定だった「II」が3月に延期と決定。ところが、メイン館では3週間であった「I」の上映を続行あるいはムーブオーバーすることで、「II」までの間に「I」の上映館が増えたという事情がある。その結果、「I」は息の長い稼働となったが、3月公開の「II」は、スクリーン数を「I」の2倍にあたる15スクリーンでスタート。オープニング時の1スクリーンあたりの興収は、「I」の半分以下になっているが、これはスクリーン数を増やしたことから、致し方のないところだ。いずれにせよ、「東のエデン」2作は、小規模ながらマーケティング面でトライアルを行い、ひとつのパターンを示したことは間違いない。
以下、興収1億円以下の作品の、ブック数、興収を羅列する。
「よなよなペンギン」122ブック7800万円、「劇場版TRIGUN」23ブック7200万円、「劇場版“文学少女”」34ブック5900万円、「いぱらの王」33ブック5900万円(調査時上映中)、「マイマイ新子と千年の魔法」65ブック4800万円、「イヴの時間 劇場版」10ブック2000万円。また6月26日からスタートした、アニプレックス配給の「宇宙ショーへようこそ」は、7月11日現在、21スクリーンで累計興収4055万円を上げている。
こうして見ると、筆者が「アンダー200」と呼んでいる、中小規模マーケットの作品が、今年上半期に軒並み好調だったことが分かるが、それらの作品の大半は、原作やTVシリーズで知名度のあるタイトルである。オリジナル作品として、そのクォリティへの評価が高かった「よなよなペンギン」「マイマイ新子と千年の魔法」の興行的失敗は、単に「オリジナルなので知名度が低く、宣伝が難しい」だけではなく、配給会社の姿勢も含め、もっと根本的な理由が存在しているのではないだろうか。今後のアニメ映画の興行を行う上で、大きな課題であることは言うまでもない。
もうひとつ指摘したいのは、中小規模のアニメ映画興行が増えたのはけっこうだが、それらはあくまで「興行」であるという、その自覚を強めてもらいたいことだ。先日、友人が見てきたアニメ映画を評して「とにかくクォリティが低かった。TVでオンエアするものを、そのまま映画館で上映している感じ」と、憤慨していた。言いたいことは分かる。映画館で作品を上映することは、純然たる「興行」であり、その商行為を成立させているのは、観客の支払う入場料金だ。観客としては料金を支払ったのだから、当然作品の内容にも、それなりのクォリティを要求する。そのことを、今一度認識していただきたい。コンテンツの過度な乱発は、ともすれば粗製濫造を招きかねない。「戦略」ありき、ではなく、まずは「作品」ありきであって欲しいのだ。中小規模の興行展開は、それを成功させる可能性を秘めている。
2ページへ続く 日本映画/特撮編

